My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「イノセンスに?」
「……焼かれて、できた傷…」
思わず問えば、ぎこちなくも雪は頷いてみせた。
イノセンスに身を焼かれる。
そんなこと教団じゃまず耳にしない事例だ。
その衝撃と共に現実を突き付けられた
やはり雪は、エクソシストとは対照となる存在になってしまったのかと。
「何があったんだ。全部話せ」
「…うん」
再度促せば、ゆっくりと雪の腫れた目が向く。
「ユウと別れて…この檻に入れられてから……暫くして、コムイ室長と面会、したの」
そうして辿々しくも、雪は一から話し出した。
俺と別れてから、その身に何があったのか。
「そこで、室長にノアのこと話して欲しいって言われて──」
コムイとの会話の内容。
ブックマンと兎に記録として観察されたこと。
俺に会いたいとコムイに交渉を持ちかけたことは引っ掛かりはしたが、事前に兎に聞いていたことだし想定内のことだと呑み込んだ。
だが、
「その後、ユウを待ってたら…ルベリエ長官と、緋装束の鴉達が現れて…」
〝ルベリエ〟
予想外の名前が雪の口から出てきた時は、嫌な予感しかしなかった。
あいつは…サーリンズと似たところがある。
昔に、俺やアルマにイノセンスとの適合実験を幾度となく強制させた男──サーリンズ・エプスタイン。
尽きた命を蘇らせる程の再生能力を持ってるからって、何度死のうが繰り返し実験を受けさせられた。
トゥイやエドガーの制止も振り切って、無理にでも第二使徒計画を押し進めようとした。
そんなサーリンズとルベリエは似ている。
俺達エクソシストを"物"としてしか見ていない目も、聖戦の為だと呪いのように繰り返す言葉も。
…もしかしたら、雪のその身に起こったことはルベリエが関係しているのかもしれない。
頭を過ぎった嫌な予感は、数分後には確信に変わっていた。