My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「っぅう…じゃ…ユウ、責任取って…面倒見てよ…っ」
「当然」
ぐしゃぐしゃの顔を晒すように、顔を上げて主張してくる。
ぎゅっと閉じられた目の隙間から、それでも後から後から零れ落ちていく雫。
強く瞑られて皺を刻んだ目元や、泣き腫らして赤く染まった頬や鼻先。
愛おしく感じるのはその顔だけじゃない。
細い手足も乱れた髪も、包帯だらけのその体全部を俺の中に収めたくて腕を広げた。
「ほら、」
「っ…?」
「任務から戻ったら、してやるって約束しただろ」
「ッ…うん…」
パリの任務前に約束したことを思い出したんだろう。言えば、広げた俺の腕の中に雪は大人しく身を寄せた。
少し緊張気味に俺の胸に手を当てて肌を寄せる。
全身包帯だらけの体だから、痛まないようにと殊更優しく抱きしめた。
強くは抱きしめて実感できない。
なのに俺の腕の中に確かにある存在感に、俺自身がほっとした。
こうしてまた雪に触れることができた。
言いようのない安心感。
隙間風が入り込んでいたような、冷たい心に吹き込まれるもの。
…それはきっと雪にしか埋められないもんだ。
泣き続ける雪をあやすように背中をそっと片手で擦る。
すると緊張気味に強張っていた体から力が抜けて、目の前のぐしゃぐしゃな顔を胸へと押し付けてきた。
「…ッ」
押し付けられてくぐもった声しか聞こえなかったけれど、大きく震える体に胸へと浸みる冷たいものが雪の涙を物語っていた。
すっぽりと腕の中に収まる存在。
直接触れてその小ささを実感すると、酷く儚いもののように思えて堪らず腕に力が入った。
包帯だらけの体は痛みを感じるはずなのに、雪は嫌がる素振りなんて一切見せず、寧ろ縋るように顔を押し付けて。そうして俺の腕の中で泣き続けた。
「っ…ふ…ぇッ」
「出せるだけ出せよ」
抱き込んで頬を寄せて、小さな耳へと口を寄せる。
震える背中を擦り続けながら殊更優しくそれを促した。
ずっと溜め込んできたもんだ、ここで全部出し切ってしまえばいい。
そんなに綺麗なものに変わるなら、何度だって受け止めるしずっと見ていても飽きはしない。
だから全部出せよ。
「全部俺が拾うから」