My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「顔、ぐっしゃぐしゃだな」
頬が緩む。
「ぅ…ぅう…っだ、って…ッ」
「やっとまともに泣いたかと思えば、んな大層な泣き方するのか。お前」
「違…っ」
「ガキみてぇ」
ふるふると首を横に振る雪に笑いかければ、抵抗するかのように錠を嵌められた両手が自らの目元を覆う。
「っつも、こんなんじゃないも…ッ偶々…っ」
忽ち隠れてしまう雪の泣き顔に、頬を包んでいた両手で手首を掴んだ。
「泣き止めなんて言ってねぇから、泣けよ」
「ぅ…何、それ…」
「まだ見ていたいし」
「っ何、それ…ッ」
うう、と涙声で恨めしそうに、雪が呻る。
その戦慄く噛み締められた唇から出る嗚咽は丸裸の子供みたいで、愛しさが増す。
ぼろぼろとさっきよりも大粒の涙が溢れる顔は、光に反射する幾つも真珠を肌の上に転がしていた。
「思ってたよりずっと綺麗だったからな」
やっぱり綺麗だ。
「…っ」
素直な今の思いを伝えれば、雪の嗚咽が更にひとつ、振動を増した。
ぼろりと、大きな真珠がまた溢れる。
…泣けよ、遠慮なく。
寧ろ俺はそれを見ていたいんだ。
ずっと誰にも見せなかったもんだろうから。
俺のこの目に焼き付けて、残しておきたい。
この、溢れ出た温かい感情と一緒に。