My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「本当は…ずっと伝えたかった、けど…私、根性なしだから…ユウに真実を伝えて、嫌われるのが…敵として見放されてしまうのが、怖くて。ずっと、できなかった…ごめんなさい」
無音の独房に響く雪の謝罪。
はっきりと言葉にはしているものの、声は辿々しいものだった。
包帯だらけの細い手足で、今にもぶっ倒れそうな幽霊みたいな顔をしている雪の姿をそのまま、音で表現したみたいに。
不安定に揺らいでいるように聞こえた。
「騙すつもりなんて、なかったの…ごめん、なさい…」
"ごめんなさい"と繰り返す声は、噛み締めるように。
思いを込めて口にしているのはわかった。
俺に強く伝えたいと思っていたんだろう。
同時に、伝えることを酷く怖がってもいたんだろう。
雪の立場を考えれば、理解できないもんじゃない。
「ユウのこと、もっとちゃんと信じていられなく、て…ごめんなさい…」
それでも、本音はもやつく。
それだけ不安煽る悩みを抱えて、こんなになるまで、なんで一人で立とうとしたんだ。
そう口を挟みたくて耐えた。
…今言うべきは、そんな言葉じゃない。
「それと、私の望み…聞いて、くれ…て…あり、がと…」
なんとか俺を目に映していた雪の視線が、再び下がる。
辿々しい声が途切れ途切れに拙さを増して、とうとうその口は言葉を止めた。
目の前で不安げな気配を身に纏い、どうにか二本の足で立っている。
そんな雪は、儚いというより消えていきそうに見えた。
土砂降りの雨の中、橋の下で一人縮まっている雪を見つけた時と同じ。焦燥感みたいなもんに駆られた。
その思いを跳ね返すように、ぐっと唇を噛む。
今目の前に雪はいる。
ノアであったってなんだって、俺の目の前にいることに変わりはない。
触れられる。
隔てるものは何もない。
此処まで、自分の足でやって来たんだ。
今捕まえておかないで、いつ捕まえんだよ。
「──雪」
腕から手を放す。
触れたのは、俯いた雪の柔い頬。