My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
俺と目が合えば、怯えたように息を呑む。
俺に会いたいだなんて言っていた癖に、俺の反応に怖がっているかのようだった。
ノアだなんて言われても、信じられない程に弱々しい姿。
本当にこいつは、そんな超人に変わったのか。
自問自答してみれば、すんなりとそこに見えてきた自分の思いに気付いた。
「わ…私の、ノアの異変は──」
「違う」
ノアの説明をしようとした雪を遮る。
違う。
俺の思いが求めているもんは、そんなことじゃない。
「何…?」
「俺が話せって言ったのは、お前の思いだ。説明なんざ後でいい」
勿論知りたい思いはある。
でも優先すべきは、そこじゃない。
ノアであることより大事なことがある。
それは雪自身の心だ。
曖昧に見えていた苛立ちが、俺の中で形を成していく。
「お前の言葉で、お前の思いを口にしろ。どんな処遇を受けてでも俺に会いたかったのは、ノアのことを説明する為だけか。違うだろ」
「……」
たった二日の間に、教団に何をされたのかはわからない。
それでも雪が怪我を負ってでも譲らなかったもんが、何かはわかる。
…俺に伝えたかったことがあるんだろ。
俺に直接会って、伝えたかった言葉があるはずだ。
「…聞いて、くれるの…?」
「その為に此処に来たんだ。ちゃんと聞くまで出て行かねぇからな」
形の無かった苛立ちが、なんとなく…本当になんとなくだけれど、少し理解できた気がした。
淀んだ目が気になったのも、そこに苛立ちを感じたのも、雪だからだ。
理由は明確なものじゃない。
ただきっと、雪だったから。
だからノアのことなんて後回しでもいい。
先にこいつの心が知りたい。
「…っ」
雪の眉が下がって、微かに震えた唇がゆっくりと開く。
「っ……ごめん、なさい」
その口から発せられたのは、はっきりとした謝罪だった。