My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
袖のない薄い服に短パンの白の囚人服。
剥き出しの細い手足には、真っ黒な錠が嵌められていた。
両手を繋ぐ鎖とは別に、足から伸びた鎖は部屋の隅に繋がっている。
けれどその錠よりも目を引いたのは、体中を覆っている包帯。
顔にもガーゼらしきものが貼られていて、思わず顔を顰めた。
雪と別れてまだ二日も経っちゃいない。
なんでそんな短期間に、目も当てられない有り様になってんだ。
「…なんだその幽霊でも見るような顔」
眩しそうにゴーレムの光に目を細めながら、俺を見てくる雪と目が合う。
二日前より血色の悪い、鬱々とした顔。
つい体のことを罵りそうになって、どうにか押し込んだ代わりに出てきたのはその顔への不満だった。
幽霊でも見るような顔で見てくるこいつ自身が、幽霊みたいな顔をしている。
「…コムイ室長に、聞いた、の…?」
恐る恐る、伺うように小さな声で投げかけてくる。
か細い雪の声は、無音の独房なら些細なもんでも拾うことができた。
「室長は…? ブックマンと…ラビ、も」
不安そうな面持ちで、両手を胸の前で握ってそわそわと俺の後方を伺う。
んな顔したってコムイも兎も現れねぇよ。
「あいつらはいない。俺一人で来た」
「え…許可、出たの…?」
「……」
兎の託が正しければ、許可は出ていない。
驚いた顔で尋ねてくる雪にそうだとも違うとも言えずに黙り込めば、察しは良い奴だ。
許可がないのに来たことがわかったんだろう、すぐにはっと顔色を変えた。
「まさか…勝手に来たの…っ?」
「…んだよ勝手にって。俺を望んだのはお前だろ」
「だ…駄目だよ…っそんな勝手なことしたら! 勝手に此処に来たことがバレたらどうなるか…! 帰って、今すぐッ」
「はぁ? 何言ってんだよ」
「いいから出てって、此処から!」
言い出したのはお前だろうが。
なんで呼び出した本人に、来て早々追い返されなきゃなんねぇんだよ。