My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「何阿呆なこと言ってんだ、お前。立て続けに独房にぶち込まれて、頭回らなくなったのか」
段々と暗闇に慣れてくる目。
映し出される雪の体の輪郭に、暗闇の所為か体に巻かれた白いものが目立つ。
あれは、包帯だ。
「つーか………なんだ、その格好」
よくよく見れば、その白いものは体の至る所を覆っていた。
最後に雪をこの目で確認したのは、コムイの司令室での姿。
あの時は鴉野郎に負わされた怪我で手当てされていたものの、ここまで大袈裟な包帯は巻かれていなかった。
なんだってそんなミイラ人間みたいになってんだよ。
「……」
「…おい、雪」
「──っ」
それでも黙り込んだまま、固まったように微動だにしない雪の名前を呼べば、微かに反応を示した。
「何固まってんだよ。返事しろ」
立ったまま寝てる訳でもねぇだろ。
驚いて固まってんのはわかるが、猿泥棒と勘違いした挙句の無反応なんて冗談じゃねぇ。
催促するように少し強めに声をかける。
一度沈黙を作った雪が、再度口を開いた。
「………ユ、ウ」
そこから零れ落ちたのは、やっと俺を認めた声だった。
恐る恐る、伺うような小さな声。
…何も変わっちゃいない。
少し掠れてはいたが、馴染んだ雪の声だった。
そのことに少しほっとする。
止めていた手を再び動かして、懐から専用の通信ゴーレムを引っ張り出して起動した。
真っ暗な独房に灯るゴーレムの光。
目玉みたいな形で作られたレンズから発光した白い光が、その内装を照らし出す。
冷たい石でできた独房内部。
密室のそこに窓なんてもんはない。
石の壁に、小さな木材のベッドと机と椅子。
その中心に立っていたのは、ファインダーのマントとは違う、白い姿の雪だった。