My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「来いっつったり出てけっつったり、なんなんだよ」
「いいから、とにかく此処から出て…! 話はそれからするから!」
俺を拒絶するかのように、声を荒げながら部屋の隅へと後退る。
体を縮めて、まるで怯えた小動物みたいに。
そんな雪の姿が酷く不愉快に映った。
こいつが今何を考えているのか、それくらいわかる。
自分の為に言ってるんじゃない、俺の為に言ってる。
許可なく面会した俺が教団に責められないように、自分を後回しにして他を優先してやがる。
苛々した。
「こ、来ないでよ…!」
「なんでだよ」
「誰かに見られたらどうすんの…!」
「見られたらなんで駄目なんだよ」
部屋の隅へと逃げる雪を追いかける。
狭い独房の中じゃあっという間に追いついて、石の壁に背中を押し付ける雪の前に立ちはだかった。
「だって許可もないのに! 勝手に来たことが上の人達にバレたら、ユウの身が──」
「そうやって、他ばっか気にしてっから」
苛々する。
そうやって自分より他を気にして優先して、結果どうなってんだよ。
「そんなふざけた状況になってんだろ」
俺を見上げてくる雪の目は、不安と恐怖みたいなもんが映し出されていた。
今まで何度も頭を殴ってきたが、そんな目を向けられたことはない。
向けられたことがあるのは、額の怪我を無理に見ようとした時だ。
あの時と同じ顔に、気付けば包帯だらけの細い腕を引っ掴んでいた。
「なんだよこれ。何をどうしたらたった一日二日で、こんな全身に怪我負うんだ」
兎が言っていた"時間がない"ってのは、恐らくこのことだ。
雪の体が酷い有り様になってんのを知っていたから、俺を雪の下へ急かしたんだろう。
「何したんだ」
「っ…何、も」
「嘘つけ、ちゃんと言え」
「嘘じゃない…っ」
腕を引っ掴んでいれば逃げ出せない。
なのに目を逸らして唇を噛んで、耐えるかのように顔を歪ませる。
そんな雪の姿は尚も逃げ出そうとするかのようで、苛立ちは増した。
腕を掴む手に力が入る。
こんな時まで意地張って強がってんじゃねぇよ。