My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
「悪く思うなよ」
急所を突いたから気絶はしたが、明日には目が覚めるだろ。
ぴくりとも動かない警護班連中の両腕を、そいつら自身のベルトを使って背中で縛り上げる。
軽く服の中を漁れば、すぐに目当ての物は見つかった。
目の前の扉に取り付けられた、重々しい錠の鍵。
パリの独房での牢獄の扉と同じ。
寧ろそれよりも重く見える扉を前に、一度息を整える。
…別に乱れちゃいないが、深く息を吸った。
中の気配は感じ取れる。
動揺でもしてるのか、乱れた、だが知っている気配。
俺の存在に気付いたのか。
僅かに隙間が開いている扉の小窓から、騒音でも拾ったんだろう。
ガチャン、
鍵を差し込み回せば、重々しい錠が外れる。
扉を引いて開けば、中は真っ暗な光一つない牢獄だった。
通路からの光が差し込んで中を照らし出す。
しかしそれは途中までで、小さな机の傍に立っていた素足を照らしたまでだった。
…あれはなんだ、足枷か?
足首に嵌められた大きな錠。
素足に繋げられている黒い鎖は、部屋の隅へと続いていた。
「──っ」
暗い部屋じゃ、まともに雪の顔も見えない。
だが息を呑む気配は伝わって、その感情は読み取れた。
俺の訪問に驚いてるんだろう。
だが落ち着くのを待ってる余裕なんて生憎ない。
新手の警護班が来る前にと、中に踏み込んでしっかりと扉を閉め直す。
僅かに開いていた扉の小窓も閉じて、再び独房を密室空間へと変えた。
これで邪魔はされないか。
再び雪へと向き直る。
相変わらず真っ暗な暗闇じゃまともに顔色が伺えない。
何か明かりになるもんはあったか…ああ、確かゴーレムの光なら──
「る、ルパン?」
………あ?
「……は?」
ゴーレムを取り出そうとした手が止まる。
今なんつった、お前。
……なんでこの場であの猿野郎の名前が出てくんだよ。