My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
『ああもう大事になっちゃった…だから私だけで行ってくるって言ったのに…!』
『はぁっ? じゃあ下手に絡まれんなよ! 面倒臭ぇ!』
『あれくらい日常茶飯事だよ! ファインダーの調査任務でも絡まれることあるし!』
『なら撃退しろよ! 俺の手煩わせるんじゃねぇ!』
『あれは作戦なの! 床の上なら油断してぽろっと情報漏らしたりするんだから! 立証済みです!』
『………は?』
『だから、油断して本来出さないはずの情報を漏らしたりだとか──』
『違う。その前になんつった』
『……床の上?』
『……』
カジノから逃げ出して文句を言い合えば、出てきたとんでもない雪の発言に言葉を見失った
あの頃の雪は、まだ体も未発達な幼いガキ
そいつが男相手に裏仕事なんて、一般的に考えても問題がある
『あ。言っとくけど最後までやらないからね。枕営業はしないから。丸腰の相手の方が倒し易いから、好都合なだけ』
『…お前……女って自覚あんのかよ』
俺もこいつを女扱いなんてしたことねぇが、あっさりと言い切るそこに迷いなんて見当たらない
自分の存在価値を軽視してるようにも見えて、気付けばそんな言葉で吐き捨てていた
自己犠牲なんて嫌いだ
だがそんな俺に向けてきたのは、いつもの"無"に近い顔
『仕事でそんな自覚、必要?』
『……』
『利用できるものは利用すべきだし、相手を食うくらいの心構えでいなきゃ、食われるだけだよ』
そう淡々と告げる雪の意見には、否定する理由はなかった
この世は弱肉強食
弱い奴は食われるだけだ
だから納得できる言葉だった
反論する必要なんてない
ただ、一瞬虚ろに真っ暗な雪の目が淀んだ気がして
その一瞬の表情に、何故かまた苛立った
理由なんてわからない
それは理由も言葉もない感情だった