My important place【D.Gray-man】
第44章 水魚の詩(うた)
『いのせんす? さァな、聞いたことねェ』
『そうですか…』
『嬢ちゃん、こんな所で世間話たァ物好きだな。出稼ぎでも来たのかい?』
『え? いえ──』
『値段次第でなら買ってやってもいいぜ。俺は今勝ち越しで金ならたんまりあるんだ』
『や、あの…そんなつもりで此処にいる訳じゃ』
『じゃあなんだってんだよ。本気でそんな怪奇現象の噂話集めてんのか?…頭のネジが飛んじまってんだな、そりゃあ好都合だ。ほれ、ついて来な』
『ぃ、いや、あの…』
『…チッ、何やってんだあいつ』
何度目かの聞き込みで、酒に酔った男に悪絡みされる雪にはつい溜息が零れた
雪の身体能力は何度か交えた任務で知ってる
体はガキだが、あんな大男でも酔った今の状態なら薙ぎ倒すことができるはずだ
なのに雪は困ったように、それでも作った笑顔を浮かべるばかりで手を出そうとはしない
ずるずると男に引き摺られていく姿に舌打ちして、仕方なしに足を向けた
『オイ、其処のデカブツ』
『あ? なんだァお前』
『げっ』
何が"げっ"だ
わざわざ助けに来てやってんのに、なんで顔色悪く返されなきゃなんねぇんだよ
『その手を放せよ。そいつは俺の………荷物だ』
『荷物!? 最早人でない!』
『ぁあ?…んだよ、よく見りゃお前の方がキレーな顔してんじゃねぇか』
『…あ?』
『ま、待って下さい! この人は男で──』
『こんなキレーな餓鬼なら一発相手してもらいてェなァ。どうだ、金ならたんま』
『要らねぇよゲス野郎!!!』
『げベブッ!?』
『あぁあー! やってしまったー!』
結末はどの道、変わらなかったと思う
気色悪い目で触れてきた大男を殴り飛ばして倒してしまえば、雪が血相変えて慌て出す
その後はあっという間にカジノの警備員に見つかって、追われながらその場を逃げ出した