My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「……ユウ?」
もう一度。
今度は体を起こして、辺りを見渡し呼んでみる。
でも反応はない。
暗い独房。
暗闇に慣れた目は、机の上の手付かずの料理が入ったトレイや薬の袋、燭台に乗った蝋燭を映し出す。
だけど狭いその檻の中に、私以外の人影を見つけることはできなかった。
空っぽの人一人分入る隣のシーツに触れてみる。
温もりは残ってない。
…いつ出ていったの?
「……」
ユウの部屋に寝泊りした時は、早朝トレーニングに向かう前にいつも一言声を掛けてくれていた。
余程のことがない限り、黙って消えることなんてなかったのに。
教団の誰かに呼ばれたのかな…もしかして、此処に来てたのが誰かにバレた?
恐る恐る鉄の扉に近付いて、聞き耳を立てる。
分厚い扉だけど、その向こうに感じていた警護班の気配は感じられない。
のしてしまった警護班の人達が起きる前にと、去っていったのかな…。
………それなら、仕方ないよね。
再びベッドに戻って座り込む。
下着姿の体は急に寒気がして、脱いだままだった囚人服に手を伸ばした。
駄目だな…ユウがいなくなった途端に、寒さを感じるなんて。
心が弱い証拠だ。
頼りっきりは駄目だ。
ノアは私の問題。
自分でどうにかしないと。
囚人服を身に着けていきながら思考を巡らす。
ユウが出ていったってことは、もう朝になったってことだ。きっと。
どうにもずっとこの檻の中にいるから、体内時計も上手く働いてない。
大まかな時間帯は全然わからないけど…多分そう。
それなら、そろそろ誰か此処に来たりするかな。
コムイ室長か、婦長さんか、ブックマンか…ルベリエ長官か。
「…っ」
ルベリエ長官の蛇のような鋭い目を思い出して身震いする。
っ…駄目だ。
心で負けちゃ駄目。
とにかく、誰でもいいから来た人に伝えないと。
ノアのこと全て話しますって。
それならもうあのヘブラスカの検査も受けなくて済むだろうし…コムイ室長にも応えることができる。