My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
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深く深く、吸い込まれるように落ちていく闇。
何もない。
胸を締め付けるような光景も、泣きそうになるようなあの女性の声も。
温かさも冷たさも何もない闇。
ただただ意識が奥深く落ちている。
ロードの子守唄を聴いた時と同じ。
そんな眠りは、久々だった。
「──…」
ゆっくりと瞼を開く。
深い眠りから自然と覚める、心地良い目覚め。
最初に視界に入ったのは、暗い闇の中でも見慣れてわかる、ベッドにぴたりと添えるように作られた石造りの壁。
それから、顔の横に置いていた両手に嵌められた鉄の枷。
…ああ、此処は教団の地下の独房だ。
何も変わってない。
「…ん…っ」
あれは夢だったのかな、なんて思う間もなく、身動げば体を襲う怠惰感と股関節の微かな違和感。
直接感じるそれが、知らせてくれた。
あれは夢じゃなかったんだ。
体から感じる確信に、ふっと心が軽くなる。
ユウは確かに私の所へ来てくれて、そして伝えたいことを伝えることができた。
私の思いをぶちまけて、それを拾ってくれて、それでも尚、好きだと言ってくれた。
言葉だけじゃなく、体で求めてくれた。
薄い布団に包まったまま、下腹部に触れる。
手を動かせば手枷の鎖が音を立てたけど、不思議とあまり気にならなかった。
ユウは言葉通り、私の中にユウ自身をしかと刻み付けた。
初めて貰ったあの感覚は、体が凄く熱くなって、気持ちよくなって、それでいてとても心地良いものだった。
本当にユウとひとつになってる感覚。
…でも、しっかり休む間もなく責められたんだよね…よくあんな体力あるなぁ…本当凄い。
「……」
あ、駄目だ。
思い出すと顔が熱くなる。
そういえば、まともな食事も取ってなかったからか体力の限界で、あっという間に意識飛ばしちゃったけど。
ユウはもう起きてるかな。
狭いベッドの中は、二人で寝ればぎゅうぎゅう。
首だけ捻って後ろを振り返る。
「…ユウ?」
だけど其処に、見慣れた寝顔を晒すユウはいなかった。