My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「──どうだ。落ち着いたか」
「…ん」
差し出された水の入ったコップに口を付けたまま、こくりと頷く。
体は裸のままだったけど、ユウの大きな上着を羽織ってるから、ほんのり温かい。
結局あの後なんとか耐えきって、飲み込んだものを吐き出さずには済んだ。
顔色を伺うように隣に座っていたユウが、ほっと安堵の色を見せる。
「ったく…まさか飲むとはな…」
「…ユウが突っ込むからでしょ」
「……悪い」
そこは全面的に悪いと思ってるんだね。
溜息混じりの顔に正論を吐いてやれば、素直に気まずそうな顔で謝ってきた。
まさかユウがあんなことするなんて。
吃驚したけど…多分色々我慢してた所為なのかな…。
普段は理性強い方なんだろうけど、それが振り切れるとユウは獣みたいになる。
その度に驚かされるけど…不思議と怖いとは思わない。
寧ろ、ちょっと嬉しいかも。
普段は見られない一面が見られるから。
そしてそれを知っているのは、きっと私だけ。
「…何笑ってんだよ」
そう思えば自然と笑みが浮かんでいた。
理解できないとばかりの表情で見てくるユウに、へらりと力の抜けた笑みを返す。
「ううん。食欲はないけど、ユウのものなら食べられるんだなぁって。なんとなくそう思っただけ」
食べるというか、飲むだけど。
半ば強制的だったけど。
今回のこれもそうだけど、ユウの血液もそうだった。
嫌悪感が少しでも強ければ、絶対に吐いてたはず。
それをしなかったのは、それだけ私の心が受け入れられてた証だ。
笑って言えば、ぽかんと私を見ていたユウの目が真ん丸なまま。さっと顔に差し込んだのは──朱色。
「お、前……言ってる意味わかってんのか…」
赤く色付く顔を片手で覆って、そっぽを向く。
珍しいユウの照れ顔だ。
「わかってるよ。それだけユウの存在は私には大きなものなんだなぁってことでしょ」
なんだか嬉しくなって、つい顔を寄せる。
見るなと言ってくるけど構わずにこにこ笑っていれば、まだ若干赤みが残る顔をユウはこちらに向けてくれた。