My important place【D.Gray-man】
第13章 夢現Ⅰ,
「じゃあ俺が教えたら、お嬢さんも教えてくれる? 名前」
「…なんで知りたいの」
「"お嬢さん"呼びは嫌なんだろ」
確かにそうだけど…。
それは私に合わせた理由なだけで、その人の真意には思えなかった。
だから口は開けずに押し黙る私に、その人はまた笑った。
「つれないね。…でも今回はロードが"こっち"に引き込んだから、起きずに済んだけど。毎回こうはいかない」
「…なんのこと言ってるの」
「お嬢さんの中のモノ。本能だけの生き物なんかになったら、簡単に溢れるぞ」
肘を付いていた手が伸びる。
その長い指先が触れるギリギリで指差したのは、私の額。
「あんな所で起きたら、面倒なことにしかならねぇから」
「言ってる意味が、全然わからないんだけど…」
さっきから比喩的表現というか…曖昧な表現ばかりで、一体なんのことを言っているのか全然わからない。
「知りたい?」
すいっと呆気なくその手を戻して、その人はまた軽く笑った。
綺麗な笑みだけど、真意の読めない笑い方。
「それじゃ、交換条件。お嬢さんの名前を教えてくれたら、俺も教えてあげる」
「…名乗る時は自分からが基本でしょ。ナンパ男さん」
どこか手慣れた、ナンパな人。
漠然とその人の認識がそんなふうにあって、気付けば口から漏れた。
すると金色の目が忽ち丸くなる。
束の間、
「ぶはッ」
顔を背けたかと思えば、盛大に吹き出した。
え、何。
「くくっ…ナンパ男って…っ俺、そんなふうに見られてたわけ」
「だ…って、いきなりあんなふうに声掛けられたら、そう思うでしょ…!」
あまりにおかしそうに笑うから、恥ずかしくなってつい声が荒くなる。
お嬢さんなんて馴れ馴れしく呼んできたかと思えば、サラリと名前を聞いてきて。口調も立ち振る舞いも、どこか手慣れた感じ。
ラビみたいなチャラさはないけど、なんとなく女性の扱いに慣れてるような、そんな飄々とした雰囲気を纏っていた。