My important place【D.Gray-man】
第13章 夢現Ⅰ,
「あんなのナンパなんて言わねぇよ。やるならもっとちゃんとやる」
肩を震わせて笑いながら、こっちを見たその人の手が伸びる。
あ。と思った時には、手首を掴まれていた。
「こんなふうに」
手首を掴むというより下から優しく握るように、引いた私の手をその口元に持っていく。
あれ?
私、包帯してたのに…と思った時には。怪我も何もしていない、私の手の甲に柔らかいそれが触れた。
「貴女のお名前、教えて頂けますか?」
流れるような自然な動作。
引いた手の甲に口付けて、視線を交えて優しく微笑む。
癖の強い黒髪の下にあるのは、随分と整った顔。
浅黒い肌は健康的なのに、左目の下の泣きボクロは更に色気のようなものを纏わせている。
総合すると、かなりイケメンなお兄さん。
そんな人にそんなことされれば、思わず体が──
「さむッ」
サブイボです。
「あれ。効果なし?」
「サブイボが…!」
「うわまじで。ちょっとショックなんだけど」
ぞわっと全身に立った鳥肌に、つい握られた手を払う。
ショックなのこっちですから!
吃驚した、中々の衝撃だった。
「もう覚めてくれないかな…これ多分夢でしょ。早く起きたい」
「まぁ夢でも間違いはないけど。少し違うというか」
「何意味のわからないこと…ああ、取り留めのない感じね。正に夢ですね」
意味のわからないことを言うその人を見て、納得とばかりに頷く。
この空間やその人含めて、全てが夢。
だからさっきから理解不能なことばかり言ってくるんだろう。
となれば、することは一つ。
「覚めろ覚めろ覚めろ」
「おーい。俺の存在否定やめてくれるー」
ひたすら自分の体に呼びかける。
だけど目の前の存在は消えてくれなかった。
「俺、夢じゃねぇから」
「……」
「うわ。すげー信じてない目」
当たり前です。
「夢じゃないなら名前は? キザ男さん」
「ナンパの次はキザかよ」
言いながらも、まるで気にしてない様子。
寧ろ楽しそうに笑うばかり。
「お嬢さんって面白いのな。なんか興味出たかも」
「……」
「うわ。すげー嫌そうな目」
当たり前です。