My important place【D.Gray-man】
第13章 夢現Ⅰ,
──気付けば其処は真っ暗な闇の中だった。
「………」
膝を抱いて座っている自分。
それ以外には誰もいない、何もない。
真っ暗で深い暗闇の中。
これ…夢なのかな…
座ったまま、上を見上げてみる。
やっぱり何処までも、真っ暗な闇が続いているだけ。
暗い暗い闇の中。
其処に私一人きり。
「だからなんで俺」
声は突然だった。
さっきまで何もなかったはずの目の前から。
聞こえた声は男性のもの。
「ったく…とりあえず俺使うのやめてくんねぇかな…朝飯もおちおち食えねぇっての」
驚いて視線を向ければ、いつの間に現れたのか。
その人はすぐ目の前にいた。
「よ。どーも」
座り込んだ私の前に、面倒臭そうに立っている男性。
癖の強いうねる黒髪を無造作に掻きながら、深い溜息をついてその目が私を見下ろした。
「会うのは二度目だな、お嬢さん」
"お嬢さん"
その呼び名に、何故かピンときた。
この人…確か。
「にしても間一髪ってとこか。面倒なもん、体内に入れられちまったな」
高い背丈を屈めて、ぐっと近付く顔。
屈んだ膝に肘を付いて、苦笑混じりにその人が笑う。
「ロードが心配してた」
ロード?
「…誰、貴方」
知らない名前に引っ掛かるけど、それ以上に引っ掛かるのはこの人。
私は知らない人なのに、この人は私を知っている。
態度や雰囲気が、明らかにそう物語っていた。
「人に名前聞く時は、まず自分から。挨拶の基本、習わなかった?」
「……」
"基本"なんてものを、教えてくれる人なんていなかった。
そう口にするよりも、その態度がなんとなく腑に落ちなくて眉を寄せる。
「先に聞いてきたのは、貴方でしょ」
あれは何処でだったのか。
憶えてないけれど、確かに聞いた。
『お嬢さんの名前、教えてくれる?』
そう、慣れた様子で問いかけてきたこの人の声を。
「あれ。憶えててくれたんだ」
意外そうに、切れ目が丸くなる。
それからその人は、どこか楽しそうに笑った。