My important place【D.Gray-man】
第13章 夢現Ⅰ
「なに後ろでごちゃごちゃやってんだよ。うぜぇ」
支部長から引き剥がした手の持ち主が、真後ろから低い声を発する。
振り返り見えたのは、眉間に皺を寄せた神田の顔。
「神田、バク支部長の体に蕁麻疹が」
「いや、大丈夫だ。大丈夫だから、気にするな」
慌てて事を伝えようとすれば、それを止めたのは支部長自身だった。
見れば既にその兆候は治まりつつある。
え、早。
「もう、支部長。そんな面倒な症状、此処で出さないで下さい」
「面倒って…時々毒舌だな、君…」
もうっと咎める蝋花さんの様子を見る限り、多分蕁麻疹は日常茶飯事のものらしい。
あんな簡単に発疹が出たり引っ込んだりしてたら大変そうだなぁ…。
「そうだっ神田、バク支部長がワクチン作れるんだって」
はっと思い出して、今一番重要なことを伝える。
「ワクチンを?」
「これなら、ただ逃げ出すだけじゃなく問題を解決できるかも」
神田の眉間の皺が消える。
あまりにも絶望的な状況だったから、その希望は私達には大きな光だった。
あとは──
パタタ…
不意に聞こえた、小さな羽音。
それは人通りのない廊下の奥底からだった。
私の背中の服を離して、神田が訝しげに目を向ける。
その暗い廊下の奥から見えたのは…金色の小さな丸いゴーレム。
「…ティムキャンピー?」
掌に乗るくらいの、小さな丸い球体。
そこから左右に広がる細い羽根を持ち、先がくるんと大きな丸みを帯びている細い尻尾を持つ金色のゴーレム。
あれは確か、クロス元帥のゴーレムじゃ…。
──コツ
足音がした。
コツ、コツ、と、ブーツか何かの。
誰かが近付いてくるような。
「ひっゾンビか…!?」
「支部長、また蕁麻疹が…っ!」
慌てる支部長と蝋花さんを余所に、廊下の先を神田が睨む。
パタパタとその場に舞うティムキャンピー以外、何も見えない。
でももし響いてくる足音がティムの持ち主なら…まずい。
相手はあの元帥。イノセンスも何もない神田じゃ、やられてしまう。