My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
(14番目のメモリーがまだ残ってんのかね…)
雪が神田達の前でノア化してしまったのは、アレンの中にある14番目のメモリーに触れたからだ。
それを魔眼であるワイズリーから聞かされていたティキは、僅かに眉を潜めた。
ジャスデビのメモリーを流し込まれた時とは違う。
14番目は千年伯爵を裏切ったノアだ。
そこに良い感情は生まれない。
「というか、なんでティキが此処に……あ。」
「? 何」
「ティキが此処にいるってことは、此処夢の中? いつの間に寝落ちたの私…! 起きろ起きろ起きろ…!」
「…まぁ似たようなもんではあるけど(半分夢で、半分現実みたいなもんだし)」
しかし少しばかり違うな、とティキは口には出さず雪の思考を否定した。
今回は寝ている雪の意識に潜り込んでいるのではなく、ワイズリーの能力で雪の潜在意識の奥底に入り込んでいる。
以前言葉を交わした、彼女の夢の中ではない。
此処は半ば曖昧な思考の世界。
「起きろ起きろ起きろ」
「って。話聞いてる?」
それでも必死に意識を醒まさせようとする雪に呆れて声を掛ければ、即座に片手を翳され止められた。
"黙ってろ"とでも言いたいのか。
ティキの眉間に再び皺が寄る。
「また来るって言っただろ。別れ際は引き止めた癖に」
「時と場合。タイミング。今は待ってなきゃいけない人がいるから…っ」
「来ないよ」
さらりと否定すれば、途端に雪の口が止まった。
やっと向いた彼女の目に、にっこりとティキは笑ってみせた。
「って言ったらどうする?」
「……笑えない冗談はやめて」
向けられはしたが、それは拒絶するような冷たい目。
それでも充分だとティキは笑みを深めた。
姿を見せてからの雪のティキに対する反応は早かった。
まるで前から知っている人物を相手にするかのように。
そう、まるで当たり前に知っているかのように反応を示した。
そこが重要なのだ。