My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「なん…ッ今の聴いて…ッ!?」
「うん。素敵な歌声だった。ヨカッタヨカッタ」
「何その棒読み! 絶対思ってないでしょ!ってか思ってても言わなくていい!」
何故彼が此処にいるのか、よりも。無防備な歌声を彼に聴かれてしまったことの方が、重要だった。
ぱちぱちと無表情に拍手を送ってくるティキに、途端に雪の顔が真っ赤に染まる。
物思いに耽って歌を口ずさむ姿など、見られて嬉しいはずがない。
寧ろ羞恥以外の感情は何も出てこない。
穴があったら入りたい、とは正にこのこと。
「大丈夫だって、音痴じゃなかったし。良い歌声だった。だから隠れんなよ」
「もう言わないでってば…!」
堪らず布団にすっぽり包まって背中を向ければ、フォローのつもりなのか否か。尚も掛けてくるティキの言葉に、雪は両耳を塞いで真っ赤な顔を伏せた。
「良い歌声だったついでに聞かせて」
「だから茶化すのはやめ」
「その歌何処で聴いたの?」
「……は?」
両耳を塞いで遮断してるはずなのに、はっきりと届くティキの声。
予想していなかった不意な問いかけに、つい勢いが削がれる。
布団に包まったまま振り返れば、ベッドに身を乗り出して覗き込んでくるティキが見えた。
「何処でって……というか近い」
「そ?…うん。何処で?」
つい後退れば、すんなりと離れるティキの体。
そうしてベッドの上で胡坐を組むと、にこりと笑って彼は首を傾げた。
何処で聴いた歌声なのか。
ティキの問いを自問自答してみる。
(…何処で、だったっけ…)
しかし明確な答えは頭に浮かばなかった。
「…よくわかんない…なんか、気付いたら頭の中にあったというか…」
「…ふぅん」
歯切れ悪く呟く雪の顔を、じっと金色の眼が捉える。
本人も答えが出ないことにもどかしさを感じているのか、複雑な雪の表情にティキはそれ以上問いかけることはしなかった。
その言葉通りなのだろう。
頭の中に浮かんだ詩は、いつの間にか雪の記憶に刷り込まれたもの。
雪自身は気付いていないのか。
それは14番目のノアメモリーに触れた際に、流れ込んだ彼の"記憶"の一部だった。