My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「っ」
駄目だ、と落ちそうになる思考を遮るように、雪は頭をふるりと振り被った。
コムイは神田を連れて来てくれると約束してくれた。
こんな自分勝手に落ち込んだ姿は見せられない。
ぎゅっと薄い布団を握って、鉄の扉へと目を向ける。
外から物音は一つも聞こえない。
それだけ分厚い扉だからなのか、それとも何も動く者がいないからなのか。
(……コムイ室長…遅い、な…)
時計はない。
コムイ達が去ってからどれ程時間が経ったのか、詳細はわからないが随分と待ったような気もする。
確かに約束してくれた。
あの時しかと頷いてくれたコムイの顔に、嘘は感じられなかった。
その言葉を信じて、抱いた膝の間に顔を押し付けてじっと彼の訪れを待つ。
しかしいつまで経っても、再び扉が開かれる気配は訪れなかった。
(明日に延期したのかな…?…今何時なんだろ…夜遅いなら、急にユウも呼び出せないだろうし。…仕方ないよね)
膝の間に顔を埋めたまま、幾つも理由を浮かび上がらせる。
まるで自分自身に言い聞かせているような気もしたが、その思考は無視した。
目を瞑る。
真っ暗な闇の中、じっと動かぬまま訪れるであろう気配を待つ。
もし延期してしまったのならば仕方ない。
もう少し待てばいいだけのことだ。
その間に、言葉を考えておかないと。
彼に伝える為の言葉。
何から切り出そう。
最初は謝らないと。
それがきっと大事。
「……」
ぐっと顔を膝の間に強く押し付ける。
暗闇と静寂。
何もない世界にひとりでいると、不安が膨らむ。
音のない世界。
動けば掠れた鉄枷の音が耳に響くから、身動きはできない。したくない。
鎖以外の音が聞きたい。
望んでいいのならば、彼の声が聴きたい。
我儘を言っていいのならば、罵声よりも優しい声がいい。
言葉はなんだって構わない。
ただひとつ。
自分の名を呼んでもらえるのなら。
「ユ──」
そして、許されるのならば。
その名を呼びたい。
「……」
口を閉じて名を遮る。
(……呼びたい、な…)
けれど、今は
呼べない。