My important place【D.Gray-man】
第12章 黒の教団壊滅事件Ⅴ.
視界も聴覚もぼやけていることが多くて…でも。
『自分の境遇を嘆くのは勝手だが、そんなもん余所でやれ。こいつを巻き込むんじゃねぇよ』
確かに聞こえたのは…神田の声だった。
『こいつの体を好きにできるのは、こいつだけだ。他人がどうこうしていいもんじゃねぇ』
そう、確かに私のことを口にしてくれていた。
「……」
「なんだ」
「…ううん」
じっと見上げる。
首を上げないといけない神田の身長は、いつも通りに戻っていて、その反応もいつも通り。
なんら変わりない、神田そのもの。
…なのに、なんでだろう。
さっきまで怪奇尽くしなことばかりだった所為か、神田が傍にいると思うと酷く安心した。
「これ、婦長さんに絶対怒られるよね…」
「そういう問題じゃねぇだろ」
自分の手を見れば、真っ赤な血塗れ状態。
どうやらこの手で跡を付けたのは間違いないらしく、婦長さんを思うと凹む。
だけど神田は眉を寄せたまま、私の掴んだ腕も離さないまま。
徐にスタスタと歩き出した。
「え、ちょ…っ」
「何をどうしたら、そんな怪我すんだよ」
「ご、ごめん」
足早な神田に半ば引き摺られるように、慌てて小走りで追いかける。
でも私の所為じゃ──…いや、私の所為かもしれない。
この手を見て思い出すのは昔のこと。
教団に正式に入団する前に、暗い地下で過ごした日々。
…あの子も、私と同じ適性実験をさせられていたみたいだから…同じように、こんなふうに真っ赤な手をしていたのかもしれない。
トイレや廊下で見た血濡れの手の跡は、きっとあの子のものだ。
「入れ」
「わっ…」
そんなことを考えながら神田に小走りでついて行ってると、急に一室に引っ張り込まれた。
何──…あ。
「…医務室?」
「そんな血生臭い姿でいたら、ゾンビが寄ってくるだろ。座れ」
促されたのは医務室の患者用の椅子。
棚から消毒液やガーゼや、色々と無造作に取り出す神田の背中をまじまじと見てしまう。
…手当て、してくれるのかな。