My important place【D.Gray-man】
第12章 黒の教団壊滅事件Ⅴ.
「自分で──」
「その手で、どうやってやるんだよ」
やっぱり。
言い切る前に言葉を被せてくる神田の態度は、足を怪我した時と同じ。
手当てしてくれるだけでも珍しいのに、二回もお世話になるなんてなんだか申し訳ない。
…でも、少しだけ嬉しいかも。
「………あの、神田さん」
「あ?」
………そんな気持ちは、その時まででした。
「消毒液…浸し過ぎじゃありませんか…」
「そんだけ両手ズタズタになってたら、妥当な量だろ」
「いやいや」
ボタボタ垂れてますから!
消毒液含ませ過ぎですよ!
そんな量で消毒されたら、絶対通常より沁みる気がする!
「つべこべ言うな、ガキじゃねぇだろ」
「でも…ッッ──!!」
「大声出すなよ。ゾンビに気付かれる」
遠慮なく消毒液をたっぷり浸した綿を両手に押し付けられて、声にならない悲鳴が上がる。
反射的に引っ込めようとした手は、しっかり手首を握られて逃げ出せない。
い、痛い痛い痛い!!!
「い、いた…っ痛い…っ」
歯を食い縛って、小さな声で口にする。
そんなこと言ったって痛みが退く訳じゃない。
でも口にすることで多少は気が紛れるから。
そうやって、何度もこの痛みに耐えてきた。
目を瞑ってしまうと、余計に触感も敏感になってしまう。
硬く目を瞑ることもできずに、ただただ両手を凝視していた。
「…そうやって言えんのか」
「…え?」
不意に、消毒液を浸した綿が離れる。
「お前、いつも怪我しても何も言わねぇだろ」
神田の指先が、掌に触れる。
透明なジェル状の何かを、指先に付けて塗っていく仕草。
それはひんやりとしていて、痛みが緩和していくような気がした。
…これ、幼い時に塗ってもらったものと一緒だ。
「怪我で大騒ぎする奴は嫌いだが…お前は言わなさ過ぎんだよ」
顔は上げず掌に視線を落としたままで、壊れ物に触れるかのように、両手にそれを塗る神田の指先は優しい。
「平気じゃない時くらい、言え」
「…でも…」
足手纏いは嫌いな神田だから、怪我なんて伝えたら嫌な顔されるだけ。
だから今まで言わなかった。
「…足手纏いに、なりたくない」
それは神田も、わかってるはず。