My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「だからね…雪くん。君の為にも、君のことを僕に教えて欲しいんだ」
「…私のこと…?」
「うん。君の…ノアのこと。ちゃんと知って、少しでも最善の道を一緒に考えたいから」
190cm以上ある長身を折り曲げて、腰を屈めたコムイ室長の顔がぐっと近付く。
寧ろ椅子に座った私を少し下から見上げるような形で、彼は優しい笑みを向けてくれた。
〝ノア〟
その名称に微かに体が強張る。
「…最善の道って…ノア、は…教団の…敵じゃないですか。そんな私が、此処で生きられる道なんて──」
ない。
「それは……まだ、そうと決まった訳じゃない」
そう首を横に振る室長の言葉は、酷く曖昧なものだった。
室長自身も確信を持って言えないからなんだろう。
私が此処で生きていけるのかどうか。
今まで浮かべていた柔らかい表情が消え去る。
再び難しい顔へと戻ってしまった室長を、見下ろしながらぼんやりと思った。
……なんでこの人は、私にそこまでしようとしてくれるんだろう。
「…なんでですか」
「…うん?」
「なんで…私にそこまでしようとしてくれるんですか」
私とコムイ室長は、教団の中では"室長"と"ファインダー"という間柄。それ以上でも以下でもない。
リナリーのように血の繋がった家族でもないし、特別馴れ合っていた訳でもない。
極々普通の職場の上司と部下。
そんな関係だったはず。
「私を救おうとして、室長にメリットはありますか?…ないでしょう。寧ろ室長としての立場を…周りに、責められるんじゃ…」
ノアを庇いなんてしたら、そんな室長まで不信な目を向けられるだけ。
それに私はただのファインダーだった。
私の代わりになれる人は沢山いる。
替えはいくらでも利く職だから。
そんな私は、黒の教団という組織の歯車の一つに過ぎない。
それが一つ欠けたって、また新しい歯車を嵌めればいいだけだ。
私に拘る必要なんて、どこにもない。
「あるよ」
だけどそんな私の思いを、はっきりと室長は否定した。