My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
此処に私の知っているラビやブックマンはいない。
両手の拳を握る。
動く度にジャラリと鎖が擦れる音が、耳障りで仕方ない。
「雪…」
「ラビ。我々は接触しに来た訳ではないぞ」
〖…わかってる〗
ブックマンの言葉に、素っ気無く返すラビの言葉は聞いたことのない言語だった。
なんて応えたのかわからない。
けど言葉の意味を問う気力もない。
私の腕を握っていたラビの手が、そっと離される。
それでも体は微動だにしなかった。
力が湧かない。
自分がノアであることを悟ってから、色んな未来を予想はしてきた。
これもその一つ。
でもどうしても避けたかった未来。
ユウの傍に居続ける為に。
彼と共に生きていく為に。
なのに…それが現実に起こってしまった。
そのことに頭が上手くついていかない。
コムイ室長が本音を隠していたことも、ラビとブックマンが私を記録物として見ていることも。
その事実が胸を抉る。
……おかしいな…教団では周りに一線引いてたはずなのに。一人で立って生きていたはずなのに。
いつから私は、こんなに心を寄せてしまっていたんだろう。
ユウ以外の人にも。
「……」
でもきっとそのきっかけになった人は…ユウ本人だ。
強く生きたいと思わせてくれたのもユウだったから。
今こうして生に縋って胸が抉られる自分が在るのも、きっと私の人生に彼が関わってくれたからだ。
「雪くん」
俯いてる視界に映り込んでいるのは、自分の膝と鎖で繋がれた両手だけ。
でもその声の大きさと気配に、室長が傍にいることはわかった。
「すまない…僕の言い方が悪かった。…確かに君と神田くんは似た過去がある。だからこそお互いに通じ合えるものがあるんじゃないかと思ったのも嘘じゃない。事実だ」
「……」
「でも、僕が君達を任務で組み合わせるようになったのは…それが理由じゃないんだ」
静かに淡々と耳に入ってくる室長の声。
ただ朧気に聞いていた。
「神田くんが先だったんだよ」
……。
……ユウが、先…?