My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
ブックマンは手厳しいことはよく言うけど、そんな冷たい目を私に向けてきたことはなかった。
経験がないものだったから、思わず身が竦む。
「良いぞ、室長。始めるがよい」
「……」
硬直して黙り込む私を確認したその鋭い目が、コムイ室長へと向けられる。
始める?
始めるって、なんのこと。
淡々と告げるブックマンに、室長はラビ同様難しい顔をしていた。
…そういえば、ブックマンもラビも教団の団服を着ていない。
見慣れたいつもの私服姿でもない。
よく見るバンダナやマフラーを身に付けていないラビは、真っ黒な上着を着込んでいた。
同様に黒く染まった服に身を包んだブックマンは、静かな気配のまま…まるでこの薄暗い闇に同化さえしてしまいそうな、そんな雰囲気を宿していた。
…もしかして。
「雪が暴れなけりゃ、押さえ付けたりしねぇから。だから大人しく──」
「ラビ」
その言葉を遮って俯く。
顔は見られない。
見たくない。
だって、今のラビは。
「…私を…記録しに来たの…?」
教団のエクソシストでもなく私の友人でもなく、"ブックマン"として此処にいる。
「……」
返事はなかった。
でもそれが"答え"だ。
ブックマンとして、ノアでありながら教団にいた私の記録をする為に。
だから室長と此処に来たんだ。
私は記録物であり、人として見てもらえていない。
だからブックマンはあんな目を向けてきたんだ。
……こんなに簡単なんだ。
こんなに呆気ないもの。
数年共に生死の境を潜り抜けてきた仲間だけれど、ノアだとわかれば掌を返したように記録の対象となる。
こんなに簡単に、共に過ごした数年間はなかったことになるんだ。
私の存在はなかったものにされるんだ。
こんなに、呆気なく。