My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「雪くん、聞いてくれ」
「…いや…聞きたくない」
尚も発するコムイ室長の声を、両耳を塞いで遮断する。
ここで反発するのが良い判断なのか否か。
ラビが言うように私の立場を悪くさせるのか。
頭は回らなくてよくわからなかったけど、そんなの関係ない。
とにかく室長の声を聞いていたくなかった。
いつもフランクで柔軟で優しかったコムイ室長。
でも結局は、適性実験を持ちかけてきた大人達と同じ。優しい言葉で真実を隠して偽ってた。
同じだ。皆同じ。
ぜんぶ、ぜんぶ、一緒だ。
「ラビ」
「………悪ィ、雪」
くぐもった音の中で、ブックマンとラビの声が聞こえたような気がした。
目の前で屈んでいたラビが、顔を少しだけ歪ませる。
と、その手が私の両腕を掴んで容赦なく耳から外された。
「っやだ…!」
「落ち着け、雪。なんもしねぇから」
鴉の枷を付けられてる両腕じゃ、まともな力は入らない。
簡単にラビに両腕を押さえ付けられて、驚いて目の前の顔を凝視した。
なんでこんなことするの。
何もしないって、何言ってるの?
嫌だって言ってるのに、聞きたくないって言ってるのに。
この時点で強制してるじゃない…ッ
「何…ッやめて、ラビ…っ」
「…悪い」
「なんで…ッ」
「自分の立場を考えることだ」
私の、立場?
「今の主に拒否権はない。反抗することは自身の為にはならんぞ」
応えは目の前のラビからじゃなく、壁際に静かに佇むブックマンの口から発せられた。
淡々と告げてくるブックマンの纏う空気は、私の知っている普段の彼のものじゃなかった。
真っ黒な隈取り化粧の奥の細い目が、静かに私を捉えている。
…知ってる。あの目。
経験がある。
小母さんやルベリエ長官達と同じ。
あれは…私を見ながら、私を見ていない目だ。