My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「落ち着け」
静かな声で促される。
振り返れば、蝋燭に灯された明かりで見えたのは、同じ色した燃えるオレンジ色の髪。
「……ラ、ビ…」
見慣れたエクソシストの一人、ラビだった。
私をその目に映して、難しい顔をしてる。
いつものヘラヘラ緩い表情はどこにもない。
なんで、彼が此処に…?
「急に飛び出して行くな。まだ呼ばれてはおらんというに」
「…この状況で黙って見てろって方が無理だろ」
「だからお前は青いんじゃ」
「うっせ」
こつこつと小さな足音がする。
音の方へと目を向ければ、鉄の扉の向こうから踏み込む小柄な老人が見えた。
ブックマンだ。
彼の言葉に素っ気無く返すラビの声は、いつもの感情豊かなものじゃない。
…ラビとブックマン?
どうして此処に二人が…
「…雪。手、放すからな。下手なことはすんなよ」
ゆっくりと、背後から羽交い絞めにしていたラビの腕が離れる。
「取り合えず座るさ。…水でも飲む?」
「……」
促されるままに、椅子に腰を下ろす。
目の前で屈んで気遣うように伺ってくるラビに、俯いたまま少しだけ首を横に振って応えた。
要らない。
今は何も口にしたくない。
「…雪くん」
コムイ室長の声に、私の肩に触れていたラビの指先がピクリと反応を示した。
私は何も返せなかった。
返す気力がなかった。
私とユウの関係は、前に中国任務でラビが呟いてた通りだったんだ。
室長の意図的な計らいだった。
それがあったから、今の私達の関係がある。
「……」
…違うよ。違う。
例えきっかけはそれだったとしても、この想いを抱えたのは私自身の意思だ。
室長の計らいじゃない。
ユウへの想いも、その暗い生い立ちを知ったからじゃない。
同情なんかじゃない。
傷の舐め合いをしたくて、歩み寄ったんじゃない。
純粋にユウのことを知りたいと思ったから。
その生い立ちを知って胸が痛んだのも、傍にいたいと思ったのも、ユウだったから。
他の誰かじゃ向かなかった、これは私自身の想いだ。
誰かに操られて、できた想いじゃ、ない。