My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
「正しい意味も教えずに優しい言葉だけ並べて…ッ私の大切なものを取り上げて餌にした癖に!」
違う。そんなこと言いたいんじゃない。
だってコムイ室長は関係ない。
この人はあの実験に関与していなかった。
でも堰を切った言葉は止まらなかった。
この数年、一度も出さなかったものだったから。
止める方法が、わからない。
「今更同情なんて要らない…ッ! そんなもの欲しくない!」
「ッ…」
「可哀想だなんて思うなら返してよ! 教団が奪った私の家族を返して…ッ!」
私に捲くし立てられ罵声を浴びせられながら、室長は抗おうとはしなかった。
じっと大人しくその身に言葉を浴びて受け止めている。
この教団に立つ側の者として。
…そうだ。
どんなに室長が私の過去に関与していなくたって。この人は教団の人間。
私の家族を奪った組織に属する人。
──ノアの、敵。
「返せもしないのに…優しくなんかしないで…ッ」
中途半端な優しさは相手を傷付けるだけ。
だから誰の心の奥底にも踏み込もうとしなかった。
責任を取る覚悟もないのに、生温い言葉だけを口にするのは"甘さ"だ。
偽りの甘さ。
「無責任な愛なんて向けないで…ッ!」
声が震える。
初めて吐き出した本音に体が、目の奥が、熱くなって。何かが込み上げた。
「…ッ」
駄目だ、泣くな。
そんな姿見せたくなんてない。
同情する相手の前で、悲観して嘆いて泣くなんて。
そんなの絶対に嫌だ…!
「雪!」
室長の胸倉を掴んでいた腕が、横から伸びた手に掴まれた。
そのまま有無言わさない力で引っ張られる。
唐突な別の力にあっという間に引き離されて、誰かの腕に抱き締められた。
「それ以上はやめろ。自分の立場が悪くなるだけだ」
抱き締めるというには少し乱暴で、羽交い絞めのように押さえてくる大きな二つの腕。
後ろから声がする。
罵声を飛ばしていた私とは違う、冷静な声だった。
冷静で感情を殺したような声。
…知ってる、この声。
この声は──