My important place【D.Gray-man】
第12章 黒の教団壊滅事件Ⅴ
✣
触れたその子の体は、冷たかったような気がする。
「…いっちゃった…」
さっきまで目の前に確かにあった存在。
それが消えて、体の重みが消える。
ああ、本当に逝ったんだ。
そう思うと胸の奥がきゅっとした。
「ありがとう」と「ごめんね」。
耳には届かなかったけど、確かに胸に届いた声。
きっと本当は優しい子だったんだ。
優しくて、寂しがり屋で。少しの間だけど一緒だったからわかる。
安らかになんて、そんな勝手なことは言えないけど。
ずっと抱えていた痛みを、あの子がもう感じないでいてくれたら。それでいい。
「おい」
じっとあの子が消えた宙を見ていたら、不意に低い声が届いた。
はっとする。
そうだ、神田。
「神──」
顔を上げて名を呼ぼうとすれば、それより先に腕を掴まれた。
「何…っ?」
ぐっと顔を近付けてくる神田に、思わず仰け反る。
な、何っ…また殴る気ですか!
でも予想した衝撃は頭にくることなかった。
代わりにじろじろと私の顔や体を見た後、神田ははぁと大きく息を吐き出した。
「ったく。なんで一人でほっつき歩いてんだよ」
「え…あ。神田の服…」
あれ…?
よく見れば、神田は上下共に成人服に身を包んでいた。
それ、警護班の制服?
「服?」
「あ、ううん。なんでもない」
改めて自分を見れば、持ってきていた神田用の服は見当たらない。
あの子と一緒になった後、何処かに置いてきてしまったらしい。
…まぁいっか。
「体、戻ってよかった。ラビもこれで戻ってるかな」
「ゾンビ姿でな」
それは言わないであげて下さい。
「それより、何これ。ホラー撮影現場?」
ふと辺りを見渡せば、あちこち赤い手形だらけ。
思わずぶるりと体を震わせれば、神田は呆れた顔をした。
「お前がやったんだろ」
「え? 私が?」
「憶えてねぇのかよ」
どうだろう…。