My important place【D.Gray-man】
第12章 黒の教団壊滅事件Ⅴ
「強くなりたくても、なれなくて。意味もわからないまま、体を弄られて。どこに恨みをぶつけていいのか、それもわからないまま」
静かに告げるその目は、哀れみや同情は浮かべていなかった。
どこか優しさを感じる程の、悲しい目。
「置いていかれるのが、嫌だったんだよね。その気持ちはわかるから。…だからこのままでいい」
「…は?」
予想外の言葉に思わず声が上がる。
俺に視線を移した月城は、眉を下げて笑った。
「神田にあれだけ、お灸据えられたし。多分もう悪さはしないよ」
「だからって、体に得体の知れないもんを入れとくつもりかよ」
「だって、一緒だから。見捨てられない」
『このこはぼくらといっしょだから。ひとりぼっちじゃ、かわいそう』
あのガキも言っていた言葉だ。
もしかしたらあいつは月城をどうにかする気じゃなく、ただ傍にいたかったのかもしれない。
…一人ぼっちが嫌だったのは、あいつの方か。
「大人しくしてるなら、私の体にいていいよ。最期まで一緒にいてあげる」
そう自分の体に笑いかける月城の声は、酷く優しいものだった。
愛情さえ感じられそうな程。
…こいつ、こんな顔持ってたのか。
「…え…?」
異変は静かに起こった。
すぅ、と溶けるように、月城の体から消えていく黒い手形の跡。
驚く月城の目の前に映ったのは、薄く空気に透けた子供の姿。
辛うじて目で確認できる程に朧気な姿は、確かにそこにあった。
声はない。
匂いも、気配も何も。
ただそいつは確かに、細い白い腕を月城の胴に回して。ぎゅっとガキのように抱き付いた。
ありがとう
ごめんね
開いた小さな口は、声を発してはいない。
それでも確かに、そう告げているように感じた。
「待っ…!」
空気に溶けるように、薄い子供の姿が消えていく。
咄嗟に伸ばした月城の手は、空を切って。
そして全ては消えた。