My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
頭の中に思い浮かべていた、金色の世界が一瞬にして消え去る。
目に映ったのは暗闇の中で見える分厚い石壁。
私の意識を現実に引き戻したのは、鉄の扉に取り付けられた小窓が開く音だった。
「起きてるか。面会だ」
小窓から覗く、明かりと上半分の人の顔。
知らない男性。
警護班の誰かなんだろう。
低く冷たい声に、微かに息を呑む。
面会?
誰。
「背中を向けて両手を壁に付け」
「いいよ、そんなことさせなくても」
「は? しかし…」
「彼女は僕に危害を加えたりしない。それは僕自身がよくわかってる。鴉の枷だって付けてるんだ、そこまでする必要はないだろう」
顔は見えないけれど、小窓から漏れる声でわかった。
あの声…コムイ室長だ。
「失礼ですが室長、これは規則です。相手は囚人。それ相応の対応を──」
「いいから開けるんだ。同じことを二度言わせないでくれ」
「…っ」
低く厳しい室長の声。
教団の最高責任者である人の滅多に聞かない声色に、警護班も逆らえなかったんだろう。やがてガチャリと、重たい錠が開く音がした。
ギィ、と扉がゆっくりと開かれる。
壁際に立ったまま動かずにいる私の足元だけを、外からの明かりが照らす。
逆光で顔は見えないけど、シルエットでわかる。
扉の前に立っていたのは、やはりコムイ室長だった。
「雪くん」
こつり、と檻の中に踏み込む足。
つい後退れば、後ろは石壁。すぐに背中は冷たい壁についてしまった。