My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
ティエドール元帥が伝えてくれた言葉は、よくわからなかった
それがあの時の幼い私の正直な気持ち
沢山の人と出会って、沢山の生き方を知って
そうすれば何か変わるのか
何も知らないことがなんで怖いのか
余計なものを知らない方が、色々傷付かなくて済むんじゃないのか
そう思ってたから
──でも
今ならわかる
何も知らないままでいれば、傷付くこともないかもしれないけど
泣きたくなる程、胸が幸せに満ちる感覚や
自分よりも他人を想える、幸福な気持ち
きっとそういうものも知らないままだったんだ
臆病なままじゃ手に入らないもの
前に進まなきゃ感じ得なかった心
それを教えてくれたのは──
『ったく、面倒なのに会った…』
『…想像してたより、優しい人だった』
『はぁ? あれは優しいんじゃなくてちょっかいがうざいんだよ。すぐベタベタ触ってくるし…』
『…好かれてるんだね』
『んな好意要らねぇよッ』
貴方
『とにかく忘れろよ、あの人の言ったことは』
『………ううん』
『…あ?』
『よくわからないけど…さっきの、私達の為に言ってくれたんじゃ──』
『いいから忘れろってんだよ! あのふざけた呼び名!!』
『いっ!? いたた耳引っ張らないで…ってそっち!?』
でもあの時は、まさか将来ユウにそんな感情を抱くようになるなんて
そんな感情を私に抱いてもらえるようになるなんて
そんなこと思いすらしなかった
懐かしい夢
今思えば、笑って話せる昔の出来事
…………あれ
なんだか珍しいな
これが"夢"だってわかる夢
いつもなら"夢"だとも思わないくらい、胸が締め付けられるような
そんな鮮やかで温かい、でも無機質で冷たい景色を見ていたのに
最後には独り取り残される
そんな暗い闇の中に、いた気がするのに
これは──…あたたかい夢だ
いつもこんな夢ならいいのに
それなら目覚めだってきっと
哀しくない