My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
『雪ちゃん。夢はね、お金なんて出さなくたって見られるものなんだよ』
そんな私の問いかけを前に
ティエドール元帥は肯定も否定もしなかった
口にしたのは、夢のような希望の話
『君達は幾つだって夢を見ていいんだ。その可能性を秘めてるからね』
『可能性…ですか…?』
『うん。君達の進む道は先に幾つだって張り巡らされてる。いくらだって広がってる。決して一つだけじゃない。自分の心一つで、案外道は拓かれたりするものなんだよ』
"君達"っていうのは、きっと私とユウのことを言ってたんだろう
ユウを見つめる元帥の目は、優しいものだったから
『任務で色んな国を回るだろう? 色んな景色を見て、色んな人に触れて、色んな文化を学んで、色んな生き方を知るといい。何よりも怖いのは何も知らないこと』
黒の教団でファインダーとして働き始めて
初めて聞かされた言葉だった
今までそんなことを教えてくれる人は、誰もいなかったから
ファインダーとして生きるにはどう在るべきか
そんなことしか教わってこなかった
自由な思想を教えてくれたのは──
…ああ、いや
クロス元帥も型は違うけど、同じようなことを言ってくれてたのかもしれない
『任務、楽しんでおいで』
でも"任務を楽しめ"なんて初めて言われたから
優しく頭を撫でてくれるティエドール元帥の、大きな手
くしゃりと雑に撫でてくれるクロス元帥の手とはまた違っていて
そして、優しかった
思わずまじまじと見上げてしまえば、優しく重なる元帥の瞳
なんだか恥ずかしくなって咄嗟に俯けば、ぽんと一撫でされて頭から手は離れた
『オイもう行くぞ、列車が出るだろうが。失礼します元帥』
『あ、うん。それでは、失礼します』
『ああ、いってらっしゃい』
慌てて元帥に頭を下げて、任務出発を急かすユウの後を小走りに追う
振り返れば廊下の角を曲がってその姿が見えなくなるまで、元帥はずっと手を振ってくれていた