My important place【D.Gray-man】
第12章 黒の教団壊滅事件Ⅴ
「お、おんなのこにてをあげちゃだめでしょ!」
「体を乗っ取ってるテメェの方が悪趣味だろ」
「ひッ! ぼうりょくはんたい…!」
「幽霊が阿呆なことほざいてんなよ」
後退るそいつの襟首を鷲掴んで捕まえる。
顔面蒼白な顔に向かって、今度は拳を振り被った。
「──…!」
大きく見開く、そいつの目。
その目の色を見た瞬間、放った拳の動きを止めた。
顔面に拳が触れる、ぎりぎり手前。拳の勢いで揺れた空気が、そいつの前髪をはらりと揺らした。
「……こ…殺す気、ですか…」
たじたじとその口から放った声は、いつもの月城のものだった。
「死ぬ訳ねぇだろ、これくらいで」
「いや…脳内出血したら死にます」
溜息混じりに拳を下ろす。
どうやらあの霊のガキは逃げ出しでもしたのか…根性ねぇな。
その所為で月城も正気に戻ったらしい。
ったく、手間掛けさせんな。
「力加減くらいしてやるよ」
「既に最初の一撃が、容赦なかったんですけど」
腫れた頬を押さえて、月城が力無く口にする。
なんだよ、取り憑かれても意識はあったのか。
「…痛、」
不意に月城の顔が歪む。
頬を押さえていた手を離して、自身の真っ赤な掌に目を見開いた。
頬なんざ押さえるから、顔にもべったり血が付いてんぞ。
「…ぁ…」
ただ月城の驚き様は困惑して慌てるようなものじゃなく、自分の手を見て愕然としているようだった。
その視線が掌から体に移る。
月城の体には未だ黒い手形のような、跡が至る所に張り付いている。
まるでその体にまだ、咎落ちした霊魂が執着しているかのように。
「もう一発くらいやっとくか」
「わーっ! 待って! ストップ! 暴力は駄目!」
拳を挙げれば、顔を青くした月城に止められた。
「私の体だから…私が一番、よくわかるよ」
止めるように手を前に突き出したまま、浮かべた表情は苦笑い。
「神田の言うことも尤もだけど。…私は、この子の気持ちも、わかるから」
「この子」と口にして、見下ろしたのは黒い手形の跡で埋め尽くされた自身の体。