My important place【D.Gray-man】
第12章 黒の教団壊滅事件Ⅴ.
じっと暗いそいつの目が俺を見る。
「…あげないよ。かみにえらばれたきみに、ぼくらのきもちなんてわからない」
ピクリと、自分の指先が僅かに揺れた。
「いらないって、きりすてられて。こころをつぶされるきもち、きみにわかる?」
淡々と告げてくるそいつの言葉に苛立ちが増す。
「このこはぼくらといっしょだから。ひとりぼっちじゃ、かわいそう」
赤く染まった手を月城の胸元に当てて、その顔はどこか自虐気味に笑う。
無性に苛々した。
「ふざけんなよ…」
ギリ、と月城の腕を掴んだ手に力が入る。
「自分の境遇を嘆くのは勝手だが、そんなもん余所でやれ。こいつを巻き込むんじゃねぇよ」
自虐は嫌いだ。
自分の境遇がどうであれ、嘆いて何かが変わる訳じゃない。
嘆く暇があるなら、抗え。
自分で生きていけるだけの、力を身に付けろ。
それだけ抗って、それでも命を落とす結果になればまだマシな奴だ。
「こいつの体を好きにできるのは、こいつだけだ。他人がどうこうしていいもんじゃねぇ」
弱い奴は嫌いだが、中身まで弱い奴はもっと嫌いだ。
少なくとも月城は、そういう弱さを内には持っていなかった。
…俺が知らないだけで、そういう弱さを持っていたとしても。そんな自分を見せつけるような奴なんかじゃなかった。
「だから、いい加減──」
そいつの腕を掴んでいた手を離す。
そのまま振り被って。
「目ぇ醒ませ!」
「ぶッ!?」
バチン!
横っ面に入れた平手打ちは、呆気なくその体をグラつかせた。
足腰しっかり鍛えとけ。
「な…なに、する…っこのこ、きみのなかまでしょ…!」
赤く腫れた頬を押さえて、驚き見てくる顔は想定内。
生憎俺とこいつの間に、そんな生温い仲間意識はねぇんだよ。
「そうだな。仲間だから、お前より月城のことはよく知ってる。多少骨折るくらいじゃ、根を上げない頑丈な奴だ」
「ひ…っ!」
ボキボキと拳を鳴らして凄めば、顔を青くしてそいつは後退った。
逃がすかよ、これからだろ。