My important place【D.Gray-man】
第43章 羊の詩(うた).
『なら彼女の耳から手を離してあげなさい。痛がっているだろう?』
『……チッ』
『ぃたた…』
『大丈夫かい? えっと…』
『…ぁ……はい。月城雪といいます。お噂はかねがね伺っております…初めまして。フロワ・ティエドール元帥様』
『"様"なんていらないよ』
『…ティエドール元帥』
『うん。じゃあ君は雪ちゃんだね』
私の名前を呼んで、背丈に合わせるように腰を屈めてにっこり笑ってくれる
ユウの師となる人だから、どんなに厳しい人かと思えば
まるで真逆の雰囲気を持つその人に、あの時は驚いた
でも驚いたのはそれだけじゃなくて
『任務はイノセンス回収かい?』
『はい。アメリカのネバダに…』
『ああ、成程ねぇ。あそこは周りが砂漠地帯だからね。でもあそこには子供には不釣り合いな所でもあるから、気を付けて行っておいで』
『不釣り合い?』
『大人がお金で夢見る所だからね』
元帥はラスベガスでの有名な娯楽、カジノのことを言ってたんだけど
幼い私はそんなもの知らなかったから
お金で夢が見られるなんて、本当に"夢"のような話だと思った
『夢って、お金を出せば見られるものなんですか』
気付けばそんなことを問いかけていた
お金を払えば見られるなんて
じゃあ、私もお金さえあれば見られたのかな
お父さんとお母さん
そして、私
親子三人で仲睦まじく暮らせる家庭
小母さんの家族のように
手に入ったのかな
そんな未来が
『…すみません。なんでもないです』
…そんなもの
お金があれば手に入るだなんて
そんな訳ない
それこそ"夢"だ、ただの
幼い頭でもそれくらいはわかったから
馬鹿げてる、とすぐに訂正した
元帥の返答を待つ前に