My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「下手な動きはするな」
投げかけられる声は冷たい響き。
神田のその姿に、その声に、その行為に、雪は目を見開き動揺した。
戦犯被疑者とリンクに告げられた時と同じ。
まるで槌で頭を殴られたような、そんな衝撃だった。
コムイに何かしようとしたとでも思われたのか。
警戒されている。
敵だから、なのだろうか。
「…っ」
ぐらぐらと揺れる心と体。
その場に崩れ落ちてしまいそうになる。
そんな雪の覚束無い足腰に、舌打ちをすると神田は拘束の手を緩めた。
徐に二の腕を掴み、強い力で立たせるように引き上げる。
「しっかり立て。自分の足で」
「……」
目線は合わない。
俯き加減に、どうにかその場に立つ雪の顔は蒼白。
そんな雪の満身創痍にも見える姿に微かに眉を潜め、腕を掴んだまま神田は後方に目を向けた。
其処には神田と同じく、雪を拘束しようと一歩踏み出していたマダラオの姿があった。
「俺一人で充分だ。手を出すな」
「…エクソシストとの接触は禁じられている。貴様こそ手を出すな」
「っせぇな。話してなんかいねぇだろ」
神田とマダラオの間で鋭い視線が交わされる。
しかしそんな状況も頭に追いつかない雪は、俯いたままその場に立つことで精一杯だった。
自分は神田に敵と見做されてしまったのか。
その恐怖が体を硬直させて動かしてくれない。
「……雪くん」
そんな雪の姿に、コムイはほんの少しだけ眉を下げた。
「君には問わなければならないことは沢山あるし、答えて貰わないといけないことも沢山ある。だけど…今は少し時間をあげよう」
「……」
呼びかけるコムイの静かな声に、それでも雪は反応を示さなかった。
俯いた顔は上がらない。
「怪我を負い目覚めたばかりだ。少し休むといい」
それは、すぐには殺されないと。
そういう意味なのだろうか。
途方に暮れる頭の中で朧気に考える。
しかしコムイに問いかける気力など、もう雪には残っていなかった。