My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
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「……」
窓際に頬杖をついて静かに見下ろす。
外の茜色の夕日は木々やベンチ、そして二つの人影を優しく照らしていた。
寄り添い涙を流す二つの人影は、過去の幼き自分を思い起こさせた。
「……院長先生ってさ。天然ぽいとこが、マナとちょっと似てんだよね…」
頬杖をついた格好で目はその二人から逸らさぬまま、ぽつりぽつりと思い出すようにアレンは呟く。
肩に擦り寄るように乗ってくるティムキャンピーを、片手で優しく撫でながら。
「ティモシーは昔の僕にちょっと似てる。だからわかるよ、あの子の気持ち」
生意気で、精一杯背伸びをして、大切な何かを守ろうとがむしゃらで、でも泣き虫で。
それはマナと放浪旅をしながら二人だけで生きていた頃の、口の悪い幼い自分とよく似ていた。
「……」
じっと思いに耽るように、窓の外に目を向けたまま口を閉じる。
そんなアレンの背に、病室に一つだけ置かれたベッドの傍に立っていたリンクは、少しだけ驚いた顔で目を向けた。
「……君から他人に"マナ"の話をするのは初めてですね」
「へ?」
そう問えば、やっとそこでアレンの顔が振り返った。
言われて気付いたのだろう。
自分でも驚いた顔をして、まじまじと再びその目はティモシー達に向いた。
「…そうかもしれない」
今まで誰にも話したことはなかった。
リナリーに、旅芸人をしていたことがあると前に話したことはある。
しかしその時、共に暮らしたマナのことは語らなかった。
アレンにとっては鬼門のようなものだ。
自分の手でAKUMAにし、結果自分の手で殺してしまった大切な人の存在。
なのに何故かその名はすんなりと、口をついて出てきていた。
自分でも気付かぬうちに。
(…そっか。笑って語れるんだ)
悲しい結末でしかなかったけれど、決して悲しいばかりではなかった。
マナと過ごした日々。
共に旅をして、ピエロに扮して日銭を稼いだり、造語遊びで秘密のゲームをしたり、よく笑い合っては時には喧嘩もして。
一方的に口の悪い自分が罵っていることが多かったけれど。
それでも確かに、それも"思い出"だ。