My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「でねっ部屋だって自分専用で個室を貰えるし──」
「ティモシー」
「んっ? 何っ?」
弾み続けるティモシーの声を止めたのは、優しい院長の変わらぬ声だった。
「明日ね。此処を発つわ」
変わらぬ声で紡がれた、唐突な別れ。
弾ませていたティモシーの空気がぱたりと止まる。
「新居が決まるまで、ロンドンのフェデリコ司祭の所でお世話になることになったの。其処なら安全なんですって」
エクソシストの道を選べば、もう孤児院には戻れない。
ティモシーだけではなく、それは他のエクソシストにも言えること。
里帰りなんてものはできない。
家族や恋人という大切な者がいたとしても、そこにエクソシストが足を向ければ、同じにAKUMAの足も向く。
大切だからこそ、会うことはできない。
わかっていたことだ。
ティモシーも幼いながらにその覚悟は感じていた。
「………そっか」
ぱたりと止めた空気を再び動かしたのは、止めた本人の口だった。
「それもオレがビシッとかましたからね」
にっと口元を笑わせてティモシーは胸を張った。
「当たり前じゃん」
微かに震える唇を、ぐっと噛み締めて。
「そう。全部ティモシーのお陰ね。ありがとう」
「へんっ当たり前のことしただけだって!」
「そうなの」
「そうそう!」
「頼もしいのね」
「だろっ」
「ふふ」
「…院長せんせー」
「なぁに?」
「鼻水、出てるよ」
「そう?」
生意気そうな少年の声と穏やかな女性の声は変わらない。
「…出てるよ、凄い。超出てる」
茜色に照らされる、優しく微笑む穏やかな院長の顔。
いつもと変わらない、体の力がほっと抜けるようなそんな顔をしながら。
院長は泣いていた。
ぼろぼろと零れ落ちる、遠慮のない涙と鼻水。
後から後から、止まる気配はない。