My important place【D.Gray-man】
第2章 空白の居場所
──────────
「…もっと人には優しくしましょう」
「あ?」
ガタガタと揺れる小さな馬車の中、瞳孔開いた美形顔と向き合う。
結局神田の脅しで、馬車は出してもらえた。
でも暴力行使なんて見ていて良い気はしない。
「優しくしてたら乗れたのかよ。結果を考えてから、ものを言え」
「それは…」
長い足を組んで座ったまま、ずばり言ってのける神田に何も言い返せなくて口を噤む。
普段列車の中とかでは、ファインダーの私は車両の外で待機してることが多いから。
こうして向き合って座るのは、少し居心地が悪かった。
「神田って…なんでそんな、喧嘩腰なの」
今まで何度も見てきたから、当たり前の光景だけど。
わざわざ波風立てるような物言いを彼はよくする。
なんでそんなことをするのか。
まるで世界の全てを嫌っているかのように。
思わず問いかければ、じっと鋭い眼孔が向いて。
「テメェには関係ねぇだろ」
ふいと逸らされた。
──あ。
こういう時の神田は、必要以上に何も語ろうとしない。
それを知っていたから、それ以上聞けなかった。
駄目だ。
神田に心を開いて欲しいだなんて、思ったことないのに。
余計なこと聞いちゃったな…。
──ズキ、
「っ、」
思わず俯けば鈍い痛みが頭を走る。
最近この痛む感覚も狭まってる気がする。
なんだろう、偏頭痛かな。
「足手纏いになったら置いてくからな」
思わず額に手を当ててしまっていたからか。冷たく言い放ってくる神田の言葉に、ぐっと歯を食い縛った。
足手纏いにはなりたくないけど、それ以上に言い返せない自分に嫌気が差して。
彼はエクソシストで、私はただの人間。
エクソシストに憧れを持ったことはない。
"黒の教団"という檻に閉じ込めて、私から父を奪ったイノセンス。
それは私にとって嫌なものでしかなかったから。
だけど。
イノセンスがなければ、AKUMAを一体だって倒せないことも事実。
そんな無力な自分に、嫌気が差すことも時々あった。
守りたいものは、私の手元には何もないのに。