My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「大丈夫か? 君」
モヤシは放っておくとして、倒れたまま動かないガキを抱えるマリに歩み寄る。
その腕に抱かれたガキは知らない顔だったが、思わず足を止めて目を疑った。
「君、しっかり──」
「おい待てマリ」
「神田? どうした」
「ああ…盲目のお前はすぐわかんねぇか」
腰を下ろして、間近でガキの顔を覗き込む。
…なんだこいつのこの姿。
「この子供…頭に玉が生えてる」
「タマ?」
不思議そうに呟くマリの目は盲目。
視力を失っているその目じゃ、いくら心音で人の心を知れても外見までは判断つかない。
マリの腕に抱かれている気絶した子供は、10歳前後程のガキ。
モヤシとぶつかった衝撃で少し漏らしてる鼻血以外には、外傷は見当たらない。
だが擦り下がったバンダナの下の額には、青緑に透き通る丸い玉のようなものが張り付いていた。
一見して宝石のような玉。
これはなん──
「ぴぇえぇええええ!!!」
……あ?
「ぴぇえええ! 血ぃー! 血がぁー! 死ぬぅううう!!!」
その時、あまりにも聞き覚えある奇妙な泣き声を間近に聞いた。
「ぴぇええええ!!!」
「ウ、ウォーカー…!? なんですか急に…!」
「「……」」
思わず無言でマリと振り返る。
見えたのは、額から真っ赤な血を流しながら大泣きしているモヤシの姿。
血と涙と鼻水をまき散らして、喚き咽び泣く姿はまるで小さなガキのようだった。
………オイ待てこの泣き方。
「……マリ」
「ああ…追ってきた昨夜のGの泣き方と同じだ…」
聴覚でマリが人違いを起こしたことはない。
…となれば。
「ぴぇえええ!!! 死ぬぅうう!!!」
「ええい! それくらいで泣くな情けない! 死んだりなどしません!」
鴉野郎はあの阿呆な泣き方を知らない。
当然だ、そいつが阿呆に泣き喚いていた時にはその体を乗っ取られてたんだからな。
「ぴ……………え?」
泣き喚くモヤシの胸倉掴んで怒鳴る鴉野郎に、不意にモヤシの泣き声が止まる。
その目は鴉野郎の顔をぱちぱちと見た後、驚いた顔で凝視した。
鴉野郎の顔を、ではなく。
「あれ…っ!?」
鴉野郎の眼球に映った自分の顔を。