My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
このハースト孤児院にオレを連れてきたのは、他ならないあのガルマーだった。
母親は知らない。
オレが物心ついた頃から、傍には父親しかいなかった。
まともに働かず酒ばっか浴びるように飲んで、気に喰わないと息子のオレにも頻繁に手を上げる。
そんな、絵に描いたような最低な父親だった。
それでもオレの親父だったし、一応飯は食わせてもらってたから。
親父の下から逃げ出そうなんて考えたことはなかった。
…思えば、親父の世界は幼いオレには絶対で、きっと"逃げ出す"って選択すら頭になかったんだろうけど。
『窃盗犯で貴様を逮捕する!』
そんなオレの世界を壊したのがガルマーだった。
小さな小さなダイヤ一つ。
宝石店からそれを盗み出した、ケチな泥棒。
まともに働かない親父がヤケを起こして犯した犯罪だった。
幼いオレにはわからなかったけど、小さくても充分価値ある宝石だったんだろう。
証拠品が見つかれば現行犯で捕まる。
それを恐れた親父が起こした行動だった。
『くそ…! ティモシー! このことは誰にも言うんじゃねぇぞ!』
『何を──んぐッ!?』
口の中に宝石を押し込まれたかと思えば、そのまま大きな手で塞がれた。
血走った目で首を絞めながら、飲み込めと脅された。
怖かった。
親父に対して恐怖はよく抱いていたけど、あの時は本当に殺されるかと思った。
だから言われた通りにした。
小さなダイヤを無理矢理喉の奥に飲み込んで、ガルマーが部屋に押し入った時には宝石はオレの胃袋の中だった。
『お前…っその子に何を…!』
『げほ…ッうえ…っ』
あの時、オレを組み敷いてる親父と、咳き込みながら倒れているオレを見たガルマーの顔は、驚きに満ちていた。
でもあの時のオレは、そんなガルマーに構う余裕なんてなかった。
親父への恐怖もあったけど。それ以上に、焼き付くような痛みが腹の中から広がったから。
痛くて痛くて、咳き込みながら悶え苦しむのがやっとだった。
痛みの原因はあの宝石だってすぐにわかった。
ガルマーもオレ達を見て状況がわかったんだろうな。
多分、警察の勘ってやつ?
証拠品はなくても、すぐに親父は逮捕されてオレもその手から解放された。
親父の、手からは。