My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「そもそも、」
主がそのような善人めいた思考を持つのは──
「"他人の記憶"ではなく"雪の記憶"だから、そう感じるのであろう?」
「……」
核心を突けばそこに返答はなかった。
無言の応えは肯定の合図にしか成り得んぞ、ティキ・ミック。
「…だったら悪いかよ」
「まさか。家族を思いやることは自然なことだ」
にっこり笑って首を横に振ってやれば、ティキは諦めに似た溜息をついた。
「…いくら"家族"って言っても、簡単に踏み込まれたくねぇ領域ってもんがあるだろ。そこを知ってしまえば、俺の雪への見方も変わる。…知りたくないのかって言えば嘘になるだろうけど……今はまだ"俺"の目だけで雪を見ていたいんだよ」
空へと顔を上げて、白い煙を吹かす。
まだ朝靄のかかった白い空に同化するように消えてゆく煙。
静かなティキのその声もまた、同化して吸い込まれるように消えてゆく。
…成程のう。
ロードがティキならば、と雪を譲った理由がわかった。
"ノア"だからではない。
"家族"だからでもない。
こ奴は雪を雪自身として、一人の生きゆく存在として見ておる。
ノアやエクソシストよりも、人を愛していたこ奴だからこそ持てた思いかもしれんのう…。