My important place【D.Gray-man】
第42章 因果律
「……ふ、」
静かに額の三つの眼を開く。
それと同時に奥深く、入り込んでいた雪の潜在意識から浮上する。
一晩中見守っていたものだから、その間体は変わらぬ体制のまま。
些か凝り固まった肩に手を当てて、軽く解すように腕を回すと、ぱきぱきと僅かに音を立てた。
肩が凝るのう、この能力は毎度毎度。
深く息を吐き出しながら、乾いた喉に水を流し込もうかと腰を上げかけて、ふと気付く。
「…そうだったの」
乾いた風が頬を撫でゆく。
目の前に広がっているのは、手入れの行き届いた広い庭園の小池。
そうだ、今宵は月がいやに綺麗だったからと。この屋敷の室内ではなく、何気なく足を伸ばした此処で雪の下へと飛んだんじゃったか。
「…雪にも見せてやればよかったかのう…」
胡坐を掻いて座り込んだベンチの上から、池の底まで見通せる透き通った水面を覗き見る。
音もなく静かにその世界を泳ぎ舞う、赤と白の魚達。
まるで宙を浮遊しているかのような鯉達の世界に、まあるく照らし出される銀色の月はそれは綺麗なものだった。
大きなまあるい銀色の月。
月見のような感覚で、その意識の中に映し出してやれば…さすれば、あのように哀しむ雪の姿は見なくても済んだかもしれない。
そんな思いが浮かんで、ついと自嘲する。
所詮それは夢物語。
ワタシが雪の夢であるかのように、幾度となく脳内に意識を繋げているのは、あの者から引き離すため。
あの、雪の心を捉えて離さぬ男から。
その最中に月など呑気なものを見せられようか。