My important place【D.Gray-man】
第41章 枷
雪を傷付けたい訳じゃない。
嫌な思いをさせたい訳でもない。
でもできるなら、伝えたいこと。
…アルマのことも伝えられてねぇんだ。
そんな現状じゃ、どうすべきかまだ結論は出せないのかもしれない。
「……はぁ」
もう一度、溜息が漏れる。
他人のことでここまで考え込んで慎重になるのは、雪が初めてだった。
相手の出方が見えないことに、こうも悩む日がくるとは。
そんならしくない自分の感情に少しだけ戸惑う。
「…ん、む…」
背中の気配がもそりと動く。
つい振り返れば、さっきと変わらぬ体勢のまま眠り続ける雪の姿が見えた。
たださっきと違うのは、その眉間に僅かに寄った皺。
なんだ、変な夢でも見てんのか。
…こんな独房に放り込まれてちゃ、見ても仕方ないかもしんねぇが。
「…っ…」
余程嫌な夢なのか、寝言のような言葉は発していないが顔が険しい。
…険しい、と言うには少し違うのかもしれない。
負の感情を表してはいるが、不満顔のようなものじゃない。
これは…昼間に独房を後にする間際に雪が見せていた顔と同じものだ。
ジジ達みたいに不満を口には出さず、一人黙って不安を抱え込んでいた顔。
夢でも独房に放り込まれてやがるのか。そう結論付いて肩を落とす。
夢に見るくらい不安抱えてやがんのに、早々弱音を口には出さないこいつに。
…別にそれが嫌な訳じゃない。
こいつにもこいつのそうやって生きてきた道があるから、それを知らない俺が文句を言ったって仕方のないことだ。
そもそも、うじうじと弱音を吐く奴なんて嫌いだ。
だから黙って耐え忍ぶ雪との任務は楽だと感じていたのに。
雪に対して、もうそんな感情は浮かばない。
さっき雪自身に伝えたように、弱音でも出せるなら俺に出して欲しいと思う。
他人に中々見せない奴だからこそ、俺にはその弱い姿を見せて欲しいと思う。