My important place【D.Gray-man】
第41章 枷
足手纏いにはなりたくないと、口癖のように言っていた雪。
足手纏いになるなと、口癖のように雪に吐いていたのは俺だ。
…溜め込み癖のあるこいつに吐き出して貰いたいなら、俺自身も変わる必要があるってことか。
そう結論付けば、割とその思いはすんなりと受け入れられた。
一人の女として好意を抱いた時点で、とっくに俺の中の何かは変わってる。
今更だな。
それにこいつは、多少なりとも前のこいつとは変わった。
拙くても思いを言葉にするようになったし、よく素の顔で笑うようになった。
……涙は、まだまともに見たことねぇけど。
でもとにかく、こいつはちゃんと進んでる。
俺と同じように。
俺にも譲れないもんはあるし、雪も簡単に吐き出せない何かを抱えてる。
面倒だろうが、そこも含めて俺は俺だし雪は雪だ。
簡単には歩めない道かもしんねぇが…確かに進んでる。
ゆっくりでも、その手を握って。
世で"恋人"と称される奴らがどんな道を歩んでいるかなんて知らねぇが、他人と比べる気はないし、そこに不満だってない。
こいつがちゃんと俺の傍にいるなら…きっと、それでいいんだろう。
「……」
目を瞑り、背中の気配を感じ取る。
視界は真っ暗闇。
けれど背中に感じる温もりと同じに、その闇は俺には心地良い。
自然と上がる口元を引き締めて、ゆっくりと目を開く。
頭を切り替えるように、傍に置いていた六幻を肩に立てかけた。
とにかく今は雪の安全確保と監視が先だ。
「…さっさと来い」
漏れたのは本音。
雪達はもう来ないだろうと言っていたが…寧ろ俺には現れて欲しい存在。
目の前に現れてくれたなら、お膳立てになる。
俺があいつを躊躇なく斬れるための。
そうして意識を猿泥棒へと向ければ、もううだうだと考え込むこともなくなった。
…ただ、なんとなく。
「…ん…ぅ…」
俺の背中に凭れて眠る雪の寝息が、まだ悪夢でも見てるのか覚束ないものだったから。
それだけが、少し引っ掛かった。