My important place【D.Gray-man】
第2章 空白の居場所
「おお…っ」
トン、と足が地面に着いたと確認した時にはもう、私の体は全く違う別の場所にいた。
「すご…! タイムマシンみたい!」
「タイムマシンは時空を越えるもんだろ。これは単なる移動装置だ、阿呆」
初めて任務で使った、アレンだけが扱うことのできる"ノアの方舟"。
鏡のような膜を通るだけで、一瞬で遠く離れた場所へと移動できるそれは、まるで魔法みたいだった。
一人興奮して騒いでいると、隣を呆れた顔でスタスタと神田が通り過ぎる。
いや、確かにそれ正論だけど。
ラビみたいに頭脳明晰な訳じゃない神田に、そんな当たり前に言葉で負かされるとは……なんとも言えない敗北感。
「それより目的地は何処だ」
「あ、うん。此処から20km程の位置にある、墓地周辺。AKUMAの目撃例は最低でも五体。レベルは不明。でも人型だから…」
「レベル1じゃないことは確かか」
恐らく。
室長に貰った資料を思い出しながら、背中の荷物を背負い直す。
…肩、ちょっと痛いな。
「徒歩じゃ少し遠いから、馬車でも拾おう。神田は其処で待ってて。動いちゃ駄目だよ」
「俺は子供かよ。さっさと行け」
方舟の出入口となってる教会から出れば、目の前には賑やかな街並みが広がっていた。
結構な人込みだから、紛れると見失う危険もある。
念を押して言えば、教会の扉に腕組みして背を凭(もた)れながら待機する神田が見えた。
よし、大丈夫そう。
「すみませんっ」
小走りで馬車の従者に近付く。
事情を話せば、すぐに乗せてくれると思った。
──なのに。
「すまないねぇ、そっちへ行く予定はないんだ」
「別の馬車を当たっとくれ」
「無理無理、その方角には出せないよ」
あれー…なんでだろう。
声を掛ける従者達に、ことごとく断られる始末。
「もしかしてAKUMAの情報が流出してるから?」
墓地周辺で人の死体が沢山出てるって、確か資料にあったっけ。
だからこそAKUMAの目撃例も確保できたんだけど。
そんな場所に向かいたがらないのは、人としての道理。