My important place【D.Gray-man】
第9章 黒の教団壊滅事件Ⅲ
「はぁ…」
うだうだと一人で考え込んでしまっているのが馬鹿らしくなって、溜息混じりに天井に体の向きを直す。
〝第二使徒〟
ご丁寧に教えるつもりなんざ全くなかったのに、気付いたらその名が口から出ていた。
俺のことを知って月城はどうするのか。そんなことが知りたかった訳じゃない。
ただこいつが紡いだ言葉が全部、必死に絞り出したもんだということは阿呆みたいに伝わってきた。
俺の言葉を馬鹿正直に飲み込んで守ろうとする、馬鹿真面目な奴で。
嫌気より、呆れが勝っただけなのかもしれない。
月城の取り繕う顔と言葉が嫌いだった。
今でもそういう姿を見れば、苛立って黙らせたくなる。
けれど最後の晩餐だなんて下らない話をして、どこか遠くを見るように誤魔化しながら話すこいつを見ていると…黙らせるよりも、気になった。
こいつがそんな顔をする理由が。
「わかんねぇ気持ちって、これかよ…」
それでもその思いはどこか朧気だ。
俺のことを知りたいと、こいつは言った。
その理由が自分でもわからないとも、こいつは言った。
あの時は思わず呆れたが、もしかしたら、こういう気持ちだったのかもしれない。
「?」
不意にもぞもぞと動く体が見えて、目を向ける。
視界に映った月城の体は、膝を抱くように体を丸めると、ぎりぎりベッドの端に齧り付くようにして小さくなった。
ミュンヘンで宿を取った時にも見た、覚えのある寝姿。
まるで小さなガキが狭いベッドの中で身を寄せて眠るようなものだ。
…こいつの癖だったのか、これ。
「寝相云々の前に、ベッドから落ちるぞ」
寝ているのを知っていて声をかける。
慣れているのか、器用にベッドの端に寄ってすぅすぅと聞こえてくる寝息に、思わず溜息が出た。
「…寝るか」
こいつのことで答えが出ていないことは幾つかあるが、今はこの状況を打破するのが先だ。
明日の為に体力を残しておかねぇと。
そう思いさっさと目を瞑ると、やはり縮んだ体は疲れていたのか簡単に睡魔はやってきた。
もう二度と、科学班の引越しなんざ手伝わねぇからな。