My important place【D.Gray-man】
第9章 黒の教団壊滅事件Ⅲ
「…ならお前が奥だ」
「奥?」
「さっさと行け」
「え。それまさかベッドの奥ってこと?」
「それ以外に何がある」
先に諦めたのは俺の方だった。
ったく。
俺の今の体なら、こいつと並んでも余裕でベッドのスペースはある。
「いやいや。そんなことしたらファンクラブのお姉様方に殺さゴホンっ」
「あ?」
「いえなんでも」
口を押さえて月城が余所を向く。
なに変なこと言ってやがる。
「いいからさっさと奥詰めろ」
「ほ、ほんとに寝るの。私、寝相悪いかもよ…っ」
「その時は殴り返してやるから安心しろ」
「何それ寧ろ恐怖です」
抵抗しながらも、渋々ベッドに上がる姿を確認してベッドに乗る。
リナ相手だったらこんなことやらない。
まぁあいつの場合はコムイが煩いのもあるが。
こいつ相手で平気なのは、男だ女だお互いに意識なんてしてないからだ。
「じゃあ…えっと、おやすみ」
おずおずと背中を向ける月城を確認して、反対側を向いて横になる。
女だなんて意識はしていない。
ただ今日何度も見たこいつの顔は、確かに俺の知らなかった表情(かお)で。
気付けばそれが脳裏から離れなくなっていたのも、確かなことで。
『私、知りたいんだ。神田のこと、ちゃんと』
こいつが、逃げずに俺にぶつかってきたからなのか。
『いいよ、お節介でも。神田になら』
こいつが、普段じゃ絶対口にしない好意を寄せてきたからなのか。
わからない。
好意を寄せられただけで気を許すような、そんな単純な思考でできているつもりはない。
そんなことで心を開けるなら、もっと早くにアルマとも打ち解けていられたはずだ。
わからないことは、いつも頭の中から追い出して気にしないことにしていた。
なのに何故なのか。
「…訳わかんねぇ」
すぐ後ろにあるこの存在に、気が向いてしまうのは。
「…すー…」
つい漏れた声が後ろの月城に聞こえなかったのか。内心焦って振り返れば、なんとも呑気な寝息が聞こえてきた。
相変わらず丸っきり危機感のない奴だな。