My important place【D.Gray-man】
第41章 枷
「まぁいいじゃないか。ファインダー部隊の身柄釈放の他に、イノセンスの調査もしなきゃならないんだ。人手はあって困らないだろう、アレン」
ピリピリした空気を止めたのは、やんわり口を挟みつつ笑顔を向けるマリだった。
「それは…そうですけど…」
渋々とモヤシが口を閉ざす。
マリ相手なら、こいつの上っ面だけ丁寧な暴言は止まるらしい。
…案外コムイの言う通りかもしれない。
いつもなら、よく俺達の間で喧嘩の仲裁をしていたのは雪だった。
マリみたいにやんわりと、というより必死こいて。
その癖逃げ出そうともするから、つい服を掴んで阻止していた。
そんなあいつの姿を思い出す。
「神田も雪が心配なら、無闇にアレンに喧嘩を売るな。こんなことで時間をかけたくないだろう?」
「…喧嘩売ってきてんのはあいつだ」
咎めるようなマリの言葉に視線を逸らす。
その言い分は半分くらいなら理解できたから、一応呑み込むことにした。
こんな所でちんたら口喧嘩してる暇はない。
サッサとパリ警察署に行かねぇと。
あいつの顔を見れば、無駄に苛立つこともなくなる。
あいつが傍にいれば──
「……」
…いや。
あいつの所為でイラつくこともあったなそういや。
ふと思い出したのは、寝起きに知らない野郎の名前を呼んでいた雪のこと。
微かな寝惚けた声に、はっきりと誰の名を呼んだのかはわからなかった。
だが俺の名前じゃなかったのは確かだ。
何よりそいつを呼ぶ雪の声に、どこか情がこもっているように聞こえて──………イラッとした。かなり。
「…チッ」
寝言に苛立つなんて。
…いや、切に呼ぶように口にしたあいつが悪い。
「神田、そんなピリピリするな。アレンももう喧嘩腰じゃないだろ」
苛立つ気配が伝わったのか、苦笑混じりにマリが声をかけてくる。
違ぇよ、俺が苛立ってんのはモヤシじゃない。
…そうわざわざ説明する気にはなれなくて、無言でゲート内を進む足を速めた。